フィンセント・ファン・ゴッホの模写作品

ゴッホの模写作品について

フィンセント・ファン・ゴッホは、生涯で30点以上の模写作品を残しています。これらの作品は、彼が画家として成長していく過程で、重要な役割を果たしました。模写を通して、彼は他の画家の技術や表現方法を学び、自身の画風を確立していったのです。

模写作品の制作時期と特徴

ゴッホの模写作品は、特にサン＝レミ＝ド＝プロヴァンスの精神病院での療養時代に多く制作されました。この時期、彼は自身の精神的な苦悩と向き合いながら、芸術への情熱を燃やし続けました。模写は、彼にとって自己表現の一つの手段であり、また、精神的な安定を保つための行為でもあったと考えられます。

様々な画家の模写

ゴッホは、ジャン＝フランソワ・ミレーの作品を特に多く模写しています。その数は20点以上にも及び、ミレーの農民画に強い共感を覚えていたことが伺えます。また、浮世絵、ドラクロワ、レンブラント、ドーミエ、ドレ、ドモン＝ブルトン、ヨルダーンスなど、幅広いジャンルの画家の作品を模写しており、彼の芸術に対する探求心と好奇心の強さを物語っています。

浮世絵の模写

パリ時代には、日本の浮世絵にも強い関心を示しました。渓斎英泉、広重、歌川芳丸などの作品を模写し、その独特な構図や色彩に影響を受けました。

渓斎英泉の模写: 「パリ・イリュストレ」誌に掲載されたものを参考に模写。左右反転された状態で複製されている。
広重の模写: 「亀戸梅屋舗」を模写。空の赤と地面の緑の対比を強調し、赤茶色の枠で囲んでいる。
「大はしあたけの夕立」の模写: 緑と赤の縁で囲み、補色の効果を強めている。

ベルナールの模写

友人であるエミール・ベルナールの作品も模写しています。ベルナールのクロワゾニスムの手法に感銘を受け、「草地のブルターニュの女たち」を水彩で模写しました。

ミレーの模写

ゴッホは、ミレーの作品を生涯にわたって模写しました。初期には素描で模写し、サン＝レミ時代には油彩で模写しています。

「野良仕事」のシリーズ: ジャック・アドリアン・ラヴィエイユの木版画を参考に油彩で模写。テオに「カラーで描かれた『野良仕事』の効果にはきっと驚くと思うよ」と書き送っている。
「1日の4つの時」のシリーズ: ラヴィエイユの木口木版を参考に模写。田舎の暮らしにおける朝・昼・夕・夜の4つの時を表現。
「歩き始め」と「犁と馬鍬」: 「1日の4つの時」のシリーズと合わせて、人生の循環を表現しようとした。
* 「2人の掘る人」と「種まく人」: 聖書のイメージを強く反映した作品。

ドラクロワの模写

ドラクロワの「ピエタ」と「善きサマリア人」を模写しています。特に「善きサマリア人」は、退院を希望していた時期に制作されたため、そのモチーフに共感したと考えられています。

レンブラントの模写

レンブラントは、ゴッホが尊敬していた画家の一人です。「大天使ラファエル」のスケッチ（実際にはアールト・デ・ヘルデルの作品）や、「ラザロの復活」を模写しています。「ラザロの復活」では、モデル作品の構図に固執せず、独自性を出しています。

ドーミエの模写

ドーミエの作品にも強い関心を抱き、「飲んだくれ」を模写しています。ゴッホの模写では、ドーミエが人物描写に集中しているのに対し、家と煙突のある街の風景を描き込んでいる点が特徴です。

ドレの模写

ギュスターヴ・ドレの木版画を模写しています。なぜこの作品を模写したのかは詳しく分かっていないが、入院中という彼の状況と関連しているとも考えられています。

ドモン＝ブルトンの模写

ヴィルジニー・ドモン＝ブルトンの「赤ん坊を抱いた炉端の女」を模写しています。この作品は、漁師の生活の一場面を描いたもので、ゴッホは雑誌に掲載された解説にも注目していたことがわかります。

ヨルダーンスの模写

ヤーコブ・ヨルダーンスの牛の作品を模写していますが、サン＝レミ時代の作品と比べると出来が悪いと指摘されています。

まとめ

ゴッホの模写作品は、単なる技術習得のためだけでなく、彼の内面や芸術に対する考え方を深く理解するための重要な手がかりとなります。これらの作品を通して、ゴッホがどのようにして独自の画風を確立していったのか、また、彼がどのような画家たちから影響を受けたのかを知ることができます。彼の模写作品は、彼の芸術を理解する上で欠かせない重要な要素であると言えるでしょう。

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