渓斎英泉

渓斎英泉：奔放な生涯と妖艶な画風

渓斎英泉（けいさい えいせん、1791年-1848年）は、江戸時代後期を代表する浮世[[絵師]]の一人です。退廃的で妖艶な美人画、数々の春画や好色本、そして風景画と、その活動は多岐に渡り、型にはまらない独自の芸術世界を築き上げました。

下級武士から浮世[[絵師]]へ

英泉は江戸市中の下級武士の子として生まれました。幼少期から絵画の才能を示し、狩野派の絵師に師事。その後、安房国北条藩に仕官するも、短期間で職を辞し、狂言作者見習いとして活動する時期もありました。20代前半に両親を亡くし、妹たちの面倒を見るため、浮世[[絵師]]への道を歩み始めます。菊川英山に師事し、本格的に絵筆を執ることとなります。師の英山から美人画の手法を学びつつも、葛飾北斎にも師事し、独自の画風を確立していきました。北斎に先駆けて日本で初めてベロ藍を用いた藍摺絵を描いたのも英泉です。

妖艶な美人画と艶本

英泉は、初期には師である英山風の可憐な美人画を描いていましたが、次第に独自の妖艶な画風を確立していきます。特徴的なのは、6頭身で胴長、猫背気味という、屈折した情念を帯びた女性像です。厚い下唇と前に出た下顎も独特です。深川や吉原の遊女をモデルに、強い意志を感じさせる眼差しを持つ女性像を数多く描きました。これらの作品は、文化・文政期の退廃的な美意識を象徴的に表現していると言えるでしょう。

英泉は絵師としてだけでなく、文筆家としても活躍しました。数多くの艶本（好色本）や春画を発表し、「千代田淫乱」という隠号も使用しました。代表作に『絵本三世相』『恋の操』『春野薄雪』『閨中紀聞 枕文庫』などがあります。『閨中紀聞 枕文庫』は、当時の性医学書・百科事典と評されるほどの奇書です。また、曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』の挿絵も担当しています。

名所絵と多様な活動

英泉は美人画や春画だけでなく、名所絵（風景画）も手がけています。歌川広重との合作「木曽街道六十九次」は、その代表作です。全72図のうち24図を英泉が担当しました。

英泉の多様な活動は、絵師としての活動にとどまりません。遊女屋を経営したり、白粉を販売したりと、多方面にわたって活動した奔放な人生を送りました。酒と女を愛し、放蕩三昧な生活を送ったという逸話も数多く残っています。天保の改革による娯楽統制の強化後は、画業を門人に任せ、文筆活動に専念するようになりました。晩年には、浮世絵に関する貴重な資料である『无名翁随筆』を著しました。

画風と影響

英泉の画風は、幕末の退廃的な美人画を得意とした歌川国貞に大きな影響を与えました。両者の作品には、互いに影響し合ったと思われるものや、合作作品も存在し、複雑な関係にあったことがうかがえます。英泉の錦絵作品は1734枚確認されており、その約73％が美人画です。特に吉原の遊女を描いた作品が多く、遊女名まで記された作品も存在することから、英泉と吉原遊廓の深い繋がりを想像させます。

晩年と没後

晩年は、画力の衰えやアイデアの枯渇が見られるものの、文筆活動は盛んでした。嘉永元年（1848年）、59歳で生涯を閉じます。

英泉の作品は、当時の世相や美意識を反映した独特のものです。奔放な人生と多彩な活動、そして独自の画風は、現代においても人々を魅了し続けています。多くの門弟を育成し、その影響は後世の浮世絵にも見ることができます。彼の作品は、江戸時代の文化や社会を知る上で貴重な資料となっています。

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