フィンランドの国章

フィンランド国章：ライオンと薔薇の歴史物語

フィンランドの国章は、力強く誇り高いライオンの姿が印象的なデザインです。一見シンプルながらも、その背景には、フィンランドの歴史と文化が深く刻み込まれています。この記事では、国章に込められた意味や、その変遷について詳しく探っていきましょう。

ライオンの紋章：西欧から北欧へ

ライオンは古くから西欧の紋章で多く用いられてきた人気のモチーフです。北欧でも、12世紀後半のデンマークの国章に初めてライオンが登場しました。フィンランドがスウェーデン王国の支配下にあった時代、スウェーデンの王族の紋章にもライオンが描かれており、その影響がフィンランドの国章にも及んでいます。

フィンランド公国時代の紋章

フィンランド公国時代には、王冠を被り、後ろ足で立ったライオンが描かれた紋章が用いられていました。これは現在の国章とよく似ていますが、まだ剣を持っていません。このシンプルなライオンの姿は、後の国章デザインの基礎となりました。

剣を持ったライオンの誕生：グスタフ1世の紋章

16世紀、スウェーデン王ヨハン3世の時代、ライオンはフィンランド大公の紋章と深く結びつくようになります。この時代、ライオンは剣を持つようになり、踏みつぶされた剣がデザインに加わりました。

最も有名なのは、ウプサラ大聖堂にあるグスタフ1世の墓標に刻まれた紋章です。金のライオンは戴冠し、右前脚が剣を持つ人間の腕に置き換えられ、左足で剣を踏んでいます。このライオンの周りには、9個の銀の薔薇が散りばめられています。この意匠は、グスタフ1世とヨハン3世がロシアとの戦いに苦闘していた歴史的背景と関連していると考えられています。薔薇は、単なる装飾であるとする説と、フィンランドの歴史的な9つの州を表しているという説があります。

国章の変遷：スウェーデン時代、ロシア帝国時代、そして独立後

スウェーデン時代、ライオンのデザインは何度も変更されました。17世紀には、剣を持つ腕以外の3本の脚でサーベルを踏むデザインも存在しました。19世紀後半には、ウプサラ・ライオンが再び使用されるようになります。

フィンランドがロシアに割譲された後、新しい国章が作られました。赤地に銀の薔薇が散りばめられ、ライオンは剣を右手にもつデザインとなりました。しかし、ロシアによるフィンランドのロシア化が進んだことで、国章のデザインはさらに変更され、ライオンの風貌が犬に似てきたり、ロシア風の王冠が追加されたりしました。

フィンランド独立後、国章のデザインを巡る議論が起こりました。ライオンを熊に変更する案もありましたが、熊がロシアのシンボルとも認識されていたため、結局はライオンが維持されました。1930年代には、委員会が熊とライオンを組み合わせた妥協案を提案しましたが、採用されることはありませんでした。

現在の国章：1978年制定

現在の国章は、1978年に制定されました。紋章デザインの専門家オロフ・エリクソンによってデザインされたこの国章は、ウプサラ・ライオンのデザインをベースに、より洗練された表現となっています。この国章は、現在もフィンランドの硬貨や軍隊、警察などのシンボルとして使用され、フィンランド国民に広く親しまれています。

まとめ

フィンランドの国章は、単なるデザインではなく、フィンランドの歴史と文化を象徴する重要なものです。幾多の変遷を経て、現在のデザインにたどり着いたその歴史は、フィンランドのアイデンティティを理解する上で、重要な鍵となります。今後も、この国章はフィンランドの人々の誇りとアイデンティティを象徴し続け、未来へと受け継がれていくでしょう。

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