フィン・マックール

フィン・マックール：ケルト神話の英雄

フィン・マックール（Fionn mac Cumhaill）は、アイルランドのケルト神話に登場する伝説的な英雄であり、フィアナ騎士団の長として知られています。彼の物語は、アイルランド神話を構成するフィン物語群に語り継がれています。

生い立ちと系譜

フィンは、フィアナ騎士団の団長クール・マックトレンモーと、ヌアザの孫娘マーナの間に生まれました。幼名はデムナでしたが、その美しい金髪と白い肌から「フィン（色白）」と呼ばれるようになりました。

フィンの血統は諸説あり、父をグレオルとする説や、母をFuincheやTarbdaとする説も存在します。また、バスクナ一族の祖先を古代レンスター王ヌアドゥ・ネフトの末裔とする系譜が一般的ですが、マンスター王Deda mac Sinとする説もあります。母方の祖父タイグは、ヌアザの別名である可能性も指摘されています。

波乱の生涯

フィンの父クールは、タイグの許しを得ずにマーナを連れ出したため、タイグに訴えられ追討を受ける身となりました。クヌハの戦いで、クールはゴル・マックモーナに討たれ、マーナは息子を守るため、密かに彼をブルーム山脈で育てさせました。

デムナは育ての親から荒野で生きる術を学び、優れた狩人となりました。ある日、ハーリングに興じる少年たちに交じって遊んだところ、たちまち上達し、その才能を見出されます。その際、太陽のように明るい髪から「フィン」と呼ばれるようになりました。

フィンという名が知れ渡ることは、彼を狙う敵、上王百戦のコン、ゴル・マックモーナ、コナルらの標的となることを意味しました。フィンは身を隠しながら各地を旅し、王や族長に仕え、戦士としての経験を積んでいきました。

騎士団長への道

フィンが表舞台に出る頃、マンスター王ムグ・ヌアザがアイルランドに帰還しました。ムグ・ヌアザは百戦のコンとの戦いで勝利し、アイルランドの南半分を支配下に置くと、フィンを南部の勇士の首席に任命しました。

その後、フィンはサウィン祭の夜にターラの王宮で、上王コンに近衛騎士として仕えることを申し出ます。宴の席で、20年間王宮を焼き払ってきた怪物『炎の息のアイレン』を倒した者に褒美を与えるというコンの言葉を聞き、その褒美として騎士団長の座を要求し、了承を得ます。

フィンは、魔法の竪琴の音で人々を眠らせるアイレンに対し、父のクールから受け継いだ魔法の槍を使って眠気を打ち破り、見事討伐に成功します。こうしてフィンはフィアナ騎士団の長となり、父の仇であるゴルとも手を結びました。

王朝の変遷とフィンの活躍

フィンは、百戦のコン、コナラ・コーエム、アート・マックコンといった上王に仕えましたが、後にアート王に反旗を翻します。マックコン王の時代には、彼の軍勢に加勢し、王位簒奪に貢献しました。しかし、マックコンが暗殺されると、7年もの歳月をかけて復讐を果たしました。

その後、コーマック王に仕え、ディルムッドとグラーニアの駆け落ち事件など、数々の伝説的な出来事に関わりました。

最期と転生

コーマック王が退位した後、フィンはケアブリ王の時代に最期を迎えたとされています。ケアブリはフィンとフィアナ騎士団を恐れ、騎士団との誓いを破ったため、騎士団は分裂し、内戦状態に陥りました。ガヴラの戦いでは、オスカがケアブリと相打ちとなり、フィンもまた、敵の槍に倒れました。

しかし、フィンは死んだのではなく、洞窟で眠っているという伝説も残されています。また、7世紀のアルスター地方の王子モンガーン・マク・フィアフネは、フィン・マックールの生まれ変わりであるという伝説も存在します。

騎士団長としての功績

フィンは、騎士団長としてアルムの砦を与えられ、フィアナ騎士団を最盛期に導きました。彼は厳しい入団試験を設け、数多くの優秀な騎士を配下に抱えましたが、彼の死後、騎士団は衰退の一途を辿りました。

フィンは公平で寛容な性格でしたが、一方で深い恨みを抱き続ける一面も持ち合わせていました。愛犬ブランとスコローンを可愛がり、妖精や美しい女性とのロマンスもありました。

親指の知恵

フィンは、ドルイド僧フィネガスの下で7年間修行し、知恵の鮭を調理する際に誤って親指を火傷し、その指を舐めたことで、難解な問題に直面した際に親指を舐めることで知恵を得る能力を身につけました。また、両手で掬った水を癒しの水に変えることもできました。

フィンの神性

フィンの原型は、知恵や知識を擬人化したフィンドという存在であると考えられています。また、ウェールズの伝説上の人物グウィン・アップ・ニュッズもフィンと同一視されています。フィンと隻眼の人物との対決は、ルーによるバロール退治との類似性も指摘されており、フィンがルーの別名であった可能性も示唆されています。

フィンと鹿の関係も深く、幼名や息子、孫の名前に鹿に関連する言葉が含まれていることや、妻のサーバが鹿に変えられたことなどから、先史文明におけるシカ信仰との関連性も指摘されています。

フィン・マックールの物語は、アイルランドの文化や伝説に深く根ざしており、今日でも多くの人々に語り継がれています。

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