フェデリコ・テシオ

フェデリコ・テシオ：イタリア競馬界の巨匠

フェデリコ・テシオ (1869-1954) は、イタリアを代表する馬産家、馬主、調教師であり、元上院議員です。20世紀初頭のイタリア競馬黎明期において、年間わずか十数頭の生産から、リボーやネアルコといった世界的な名馬を輩出したことで知られています。「ドルメロの魔術師」の異名を持つテシオの生涯と、その類まれな馬産技術に迫ります。

裕福な家庭から競馬界へ

トリノの裕福な家庭に生まれたテシオは、幼少期に両親を亡くし、寄宿学校を経て軍隊に入隊。その後、両親の遺産を相続し、世界旅行や大学での外交官課程修業、アマチュア騎手活動など、奔放な生活を送りました。転機となったのは、リディア・テシオとの結婚です。1898年、夫妻はミラノ近郊にドルメロ牧場を開設しました。

ドルメロ牧場とオルジアタ牧場

当初は小規模だったドルメロ牧場は、1930年頃、オルジアタ牧場のマリオ・インチーサ・デッラ・ロケッタ侯爵との共同経営により「ドルメロ・オルジアタ牧場会社」として規模を拡大しました。このパートナーシップにより、経済的な支援を受け、温暖なオルジアタ牧場での冬季飼育など、柔軟な経営が可能になりました。

テシオは、数々の名馬を生産し、ヨーロッパ競馬界に大きな影響を与えました。ドルメロ・オルジアタ牧場会社は、テシオの死後もリディア、そしてインチーサ家によって経営が続けられ、現在も馬産事業を展開しています。2019年のイタリアオークス優勝馬Lamaireも同社の生産馬です。

テシオの馬産哲学

テシオの生産方針は、クラシックディスタンスでの活躍を重視したものでした。スピード馬は評価せず、自身の最高傑作としてカヴァリエーレ・ダルピーノを挙げています。ネアルコやリボーに対する評価も、必ずしも高くありませんでした。

配合理論

テシオの複雑な配合理論は、著書『サラブレッドの生産』に記されています。彼はニックスを重視し、種牡馬選びではスピードと早熟性を重視しました。しかし、生粋のスプリンターは避け、2歳で好成績を残し、3歳でクラシック競走で活躍できる馬を理想としていました。アヴルサックとファロスは、彼の馬産において重要な役割を果たした種牡馬です。

繁殖戦略

テシオは、「アウトサイド・ブリーダー」として、他牧場の種牡馬を積極的に活用しました。これは血統的多様性を維持し、感情的な判断を避けるためでした。自身の生産馬を積極的に次世代の繁殖に使わなかった点も特徴です。例外として、リボーは4代続けてテシオの生産馬です。安価な繁殖牝馬を導入し、世代を重ねて改良する手法は、彼の成功の大きな要因の一つです。

同時代の馬産家との比較

エイブラム・S・ヒューイットの著書『名馬の生産』では、テシオはアーガー・ハーン3世やブサックと比較されています。ブサックが「ホーム・ブリーダー」、テシオが「アウトサイド・ブリーダー」である点、アーガー・ハーン3世がスピード重視であるのに対し、テシオは持久力重視であった点が指摘されています。アーガー・ハーン3世は一度、テシオに所有馬の買い取りを提案しましたが、条件面で合意に至らなかったという逸話も残っています。イタリア国内では、ジュゼッペ・デ・モンテルがライバルでした。

多彩な趣味と芸術性

テシオは美術愛好家としても知られ、生産馬には美術家にちなんだ名前を付けていました。ボッティチェッリ、ミケランジェロ、ドナテッロなどが例として挙げられます。自身も画家であり、妻や生産馬の絵画を残しています。家具作りも趣味とし、ドルメロ牧場の家具の多くは彼自身の手によるものです。

生産者としての記録と主な生産馬

テシオは、イタリアダービー、イタリアオークス、イタリアセントレジャー、ミラノ大賞典などで多数の勝利を収めています。リボー、ネアルコ、ドナテッロ、ボッティチェッリ、テネラニ、ベッリーニ、カヴァリエーレ・ダルピーノなど、数々の名馬を輩出しました。これらの馬の活躍は、テシオの馬産における偉大さを物語っています。

まとめ

フェデリコ・テシオは、独自の配合理論と繁殖戦略、そして類まれな眼力で、イタリア競馬界に多大なる貢献をしました。「ドルメロの魔術師」の異名は、彼の卓越した能力と、競馬界に与えた大きな影響を端的に表していると言えるでしょう。彼の功績は、現代の競馬界にも色濃く影響を与え続けています。

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