フェニル酢酸メチル

フェニル酢酸メチル：香りと機能性を併せ持つ化学物質

フェニル酢酸メチル(C9H10O2)は、酢酸エステルの一種であり、メチルフェニルアセテートとも呼ばれる有機化合物です。天然にはイチゴ、ココア、コーヒーなどの植物に含まれ、特有の香りを放つことから、古くから香料として利用されてきました。

香り：自然と調和する芳香

フェニル酢酸メチルの香りは、ジャスミンを思わせるフローラルノートが特徴です。やや甘く、穏やかな印象を与え、ジャスミン、ローズ、オリエンタル調の香水のトップノートとして、その香りの奥行きと華やかさを演出する役割を果たします。その用途は多岐に渡り、石鹸や洗剤、芳香剤といった日用品から、マスキング効果を利用した家具や床用のワックスにも使用されています。食品分野では、イチゴ、桃、チョコレート、バニラ、タバコなどのフレーバーに、0.1～37ppmという少量ながら、独特の風味を付加するために使用されています。

機能性：害虫防除への応用

近年、フェニル酢酸メチルは、その誘引性に着目した新たな応用が注目されています。林野庁森林総合研究所の研究では、スギやヒノキに被害を与えるスギノアカネトラカミキリに対して、フェニル酢酸メチルが強い誘引性を示すことが確認されました。この特性を利用し、フェニル酢酸メチルを含有した誘引トラップが市販されており、森林害虫防除に貢献しています。これは、化学物質の香りを利用した環境に優しい害虫対策として、注目を集めています。

製造方法：化学合成による効率的な生産

工業的には、塩化ベンジルとシアン化カリウムからシアン化ベンジルを合成し、これにメタノールと塩酸を加えて加水分解とエステル化を同時に行うことでフェニル酢酸メチルが製造されます。この合成ルートは、比較的効率的で、大量生産にも適しています。

物理化学的性質：安定性と危険性のバランス

フェニル酢酸メチルは、有機酸や希酸に対しては安定した性質を示しますが、アルカリ性条件下では不安定となります。日本の消防法では、危険物第4類第三石油類に分類されており、取り扱いには注意が必要です。

参考文献

印藤元一『合成香料 化学と商品知識』化学工業日報社、2005年。ISBN 4-87326-460-X。
日本香料協会『香りの総合事典』朝倉書店、1998年12月10日。ISBN 4-254-25240-4。

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