フェミサイド

フェミサイド：ジェンダーに基づく女性の殺害

フェミサイド（Femicide）とは、性別を理由に女性や少女が殺害される犯罪を指します。男性による殺害が特に注目されることが多いですが、女性が加害者となるケースも存在します。この用語は、1976年にフェミニストのダイアナ・ラッセルによって広まりました。国連などでも「ジェンダーを理由とする女性や少女の殺害」として認識されており、深刻な人権侵害として位置付けられています。

フェミサイドの定義：複雑さと多様性

フェミサイドの定義は、必ずしも明確ではありません。ラッセルは当初、女性差別に基づく男性による女性の殺害と定義しましたが、その後、被害者や加害者の数を限定しない、より広範な定義へと修正しました。加害者の動機や属性に関係なく、女性を標的にした殺人を全てフェミサイドと捉えるべきという意見もあります。

しかし、男児選好による殺害や、持参金絡みの殺害など、女性が加害者となるケースも存在します。これらのケースをフェミサイドに含めるかどうかは、議論の余地があります。

定義のあいまいさは、様々な形態の女性殺害を可視化し、問題の全体像を把握する上で、かえって有効であるという見方もあります。

日本におけるフェミサイド

日本の殺人事件全体における女性被害者の数は少ないものの、被害者における女性の割合は世界的に見ても高い水準です。国連薬物犯罪事務所（UNODC）の報告（2014年）では、殺人被害者の女性割合で日本と香港がトップにランクインしています。

警察庁の統計（平成30年）によると、殺人事件における女性被害者の割合は増加傾向にありますが、女性被害者数自体は減少傾向にあります。ただし、統計データには、事件の認知率や、記録方法の違いによる影響も考えられるため、注意が必要です。

フェミサイドの事例：多様な形態と背景

フェミサイドには、様々な形態と背景が存在します。

名誉殺人: 婚姻拒否や恋愛関係など、家族の名誉を汚すとみなされた女性が殺害されるケース。
モントリオール理工科大学虐殺事件: 反フェミニズム思想を持つ男性による、女性を標的にした大量殺傷事件。
ソウル江南トイレ殺人事件: 女性への憎悪感情が動機とされる通り魔殺人事件。
デートDV: 恋愛関係における暴力、そして極端なケースでの殺害。

これらの事件は、フェミサイドの多様な側面を示す一例に過ぎません。

フェミサイドの発生率と地域差

国連の報告によると、世界で記録された殺人の約10%を加害者が女性が占め、被害者の約20%が女性です。毎年、およそ6万6千人の女性と少女が暴力的に殺害されており、意図的な殺人の約17%を占めています。

フェミサイドの発生率は、一般的に殺人率の高い国や地域で高くなる傾向があります。ただし、東ヨーロッパやロシアなど、殺人率と比較してフェミサイドの割合が高い地域もあります。

フェミサイド抑制に向けた動き

フェミサイドの増加を抑制するため、様々な取り組みが行われています。

法整備：フェミサイドを明確に犯罪として位置付け、厳罰化を進める動き。
啓発活動：ジェンダーに基づく暴力への認識を高めるための教育やキャンペーン。
* 支援体制：被害者への支援や、加害者への更生支援プログラムの充実。

2022年には、エジプトでフェミサイドの抑止策として、死刑執行を生中継できるよう法改正を求める動きがありました。

まとめ

フェミサイドは、ジェンダーに基づく暴力の最も極端な形態であり、深刻な人権問題です。その定義や発生状況、背景は複雑で、国や地域によって大きな違いがあります。フェミサイドをなくすためには、ジェンダー平等意識の向上、法整備、支援体制の強化など、多角的なアプローチが必要です。今後も、国際的な協調と継続的な取り組みが不可欠です。

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