フェラーリ・156/85

フェラーリ156/85：栄光への挑戦と挫折

1985年のF1世界選手権。スクーデリア・フェラーリは、ハーベイ・ポスルスウェイト設計による革新的なマシン、フェラーリ156/85を投入しました。このマシンは、1.5リッターV6ターボエンジンを搭載し、前年モデル126C4から大きく進化を遂げていました。

先進技術の結晶

156/85の車体は、当時最先端の技術であるメス型曲面成形のカーボンモノコックを採用。この技術は、高いカーボン加工技術を必要としましたが、型から抜いたモノコック表面が極めて滑らかになり、そのまま外皮として使用できるというメリットがありました。モノコックタブは上下に分割され、下側のタブはノーズ先端まで伸びる構造でした。

フロントサスペンションにはプルロッド式を採用。吸排気系やラジエーター、インタークーラーの配置も見直され、空力性能の向上に貢献しました。また、後輪車軸より後方に斜めにせり上がる大型ディフューザーを備え、強力なグランドエフェクトを実現。これはロータスに続く採用で、車体後部でのダウンフォースの増大を狙ったものです。

エンジンは前年モデルのV6ターボの改良版でしたが、吸排気レイアウトに大きな変更が加えられました。従来はVバンク外側から吸気、内側から排気するレイアウトでしたが、156/85ではこのレイアウトが逆転。これにより車体後部の高さを抑え、ターボの過熱や冷却不足の問題も軽減されました。

チャンピオン争いとターボトラブル

シーズン中盤、アルボレートは156/85で好成績を収め、ランキングトップに立ちました。しかし、ドイツGP以降、5戦連続でノーポイントという結果に終わります。

その原因は、後にアルボレート自身によって明かされました。156/85と、ライバルであるマクラーレンMP4/2BはともにKKK社製のターボチャージャーを使用していましたが、フェラーリへの圧力を懸念したエンツォ・フェラーリが、KKK製ターボの全面撤廃を決定。急遽、ギャレット製ターボへの変更を余儀なくされたのです。この変更はエンジンに大きな仕様変更を必要とし、シーズン終了まで解決に至らなかったことが、チャンピオン獲得を逃した大きな要因でした。

シーズン終盤には、空力性能の改良を目指したBスペックも投入されましたが、競争力はむしろ低下。ヨハンソンは、156/85の空力特性、特に路面状況への過敏さや高速コーナーでの不安定さを指摘しています。フィオラノサーキットには高速コーナーが不足していたため、その部分の改善が難しかったようです。

156/85のスペック

シャーシ: 156/85
ホイールベース: 2762 mm
前トレッド: 1781.7 mm
後トレッド: 1663 mm
ブレーキ: ブレンボ
ホイール: スピードライン
タイヤ: グッドイヤー
ギヤボックス: 5速横置マニュアル
エンジン: Tipo031 (V型6気筒ツインターボ・120度, 1496.4cc)
最高出力: 950ps (予選), 780ps (決勝)
* 製造台数: 9台 (シャーシナンバー079～087)

結論

フェラーリ156/85は、革新的な技術を惜しみなく投入したマシンでした。しかし、ターボ変更によるトラブルや空力特性の問題により、チャンピオン獲得という目標には届きませんでした。このマシンは、フェラーリの技術力の高さの一端を示すと同時に、F1における開発競争の激しさと、勝利への道の困難さを改めて認識させる事例となりました。

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