フェラーリ・F10

フェラーリF10：2010年シーズンの挑戦と進化

2010年のF1世界選手権を戦ったスクーデリア・フェラーリのマシン、フェラーリF10は、前年のF60の苦戦を教訓に、技術陣の総力を結集して開発されました。燃料再給油禁止というレギュレーション変更に対応するため、徹底した軽量化と空力性能の向上が追求されました。

空力特性と革新的デザイン

F10の最大の特徴は、その革新的な空力設計です。フロントノーズは前方へ延長され、フロントサスペンション取り付け部はレッドブルRB5で採用されたVノーズ形状に類似した、モノコックの両端を持ち上げたデザインとなっています。これは、既にフェラーリが2009年ヨーロッパGPでテストしていた形状を改良したものです。リヤホイールには、ホイールカバー禁止に対応した二重リング状のパーツが装着され、サイドポンツーンは上面を低く抑え、外側に向けて盛り上がる形状で、空力効率の最大化が図られています。

サイドミラーは当初、サイドポンツーン外側のポッドフィン先端に装着されていましたが、視界の問題からレギュレーション違反とみなされ、第5戦スペインGPからはコクピット両脇に移設されました。また、リヤウイングと接続するシャークフィンを備えたエンジンカウルや、空力特性を最適化するFダクトも導入されました。このFダクトは、ドライバーが左手の甲で操作することでリヤウイングのドラッグを減らし、最高速度向上に貢献しました。さらに、第9戦ヨーロッパGPからは、ブロウン・ディフューザーが導入され、エキゾーストパイプの取り回しやラジエター形状も見直されるなど、シーズンを通して空力性能の向上が図られました。

エンジンと駆動系

エンジンとギヤボックスは、前方に向かって3.5度傾けられています。これは、車両後部を持ち上げることでディフューザー設計の自由度を高める狙いがありました。しかし、シーズン序盤はエンジンの信頼性に課題が見られ、マレーシアGPや中国GPでエンジントラブルが発生しました。そのため、第5戦スペインGPからは改良型エンジンを搭載することになりました。また、高速コースでのブレーキ負担を軽減するため、カナダGPではカーボンインダストリー製のブレーキが使用されました。

カラーリングとスポンサー

F10のカラーリングは、フェラーリの伝統的な赤をベースに、前後ウイングが白に塗装され、新スポンサーであるサンタンデール銀行のマーキングが施されました。エンジンカバーには、マールボロのロゴを模したとされるバーコード状のロゴが掲載されていましたが、たばこ広告を連想させるという指摘を受け、第5戦スペインGP以降撤去されました。

シーズン成績とタイトル争い

プレシーズンテストでは好調な結果を残し、アロンソは「これまで乗った中で最高のマシンだ」とコメントしました。開幕戦バーレーンGPではワンツーフィニッシュを達成し、好スタートを切りましたが、エンジンの信頼性や空力性能に課題が残るなど、マクラーレンやレッドブルとの差はシーズンが進むにつれて明らかになりました。

しかし、ブロウン・ディフューザーの導入など、シーズン中の改良によって徐々にパフォーマンスを向上させ、ドイツGPではワンツーフィニッシュを果たしました。また、モンツァやシンガポールといった異なる特性を持つサーキットでも優勝争いを演じましたが、最終的にアロンソはタイトル争いを制することができませんでした。

主要諸元

シャーシ: F10 (661)、カーボンファイバー/ハニカムコンポジット複合構造モノコック
エンジン: フェラーリTipo056、V型8気筒、2,398cc、最高回転数18,000rpm
重量: 620kg (冷却水、潤滑油、ドライバーを含む)
タイヤ: ブリヂストン
* ブレーキ: ブレンボ (一部レースでカーボンインダストリー製を使用)

フェラーリF10は、技術革新と進化の過程を象徴するマシンとして、F1の歴史に名を刻みました。その挑戦と努力は、現代のF1マシンの設計にも大きな影響を与え続けていると言えるでしょう。

もう一度検索