フェラーリ・F138

フェラーリF138：V8エンジンの最終章を飾る名機

2013年のF1世界選手権で、スクーデリア・フェラーリは強力なマシン、フェラーリF138を投入しました。マラネッロで誕生したこのマシンは、2月1日の公開後、5日にはヘレステストでシェイクダウンを実施。その車名は、西暦2013年とV型8気筒エンジンを組み合わせたものであり、開発コードは「664」でした。このネーミングには、レギュレーション変更により2014年から導入されるターボエンジンを控え、V8エンジン最後の年であるという強い意志が込められています。

フェラーリは、2014年からのターボエンジン時代を見据え、開発体制を2班体制に再編。2013年マシンの責任者にはシモーネ・レスタが任命されました。また、開発の精度向上のため、それまで問題の多かった自社の風洞を一時閉鎖し、トヨタ・モータースポーツ（TMG）のケルンにある風洞施設を利用して空力研究を行いました。

F138の大きな特徴として、空力性能の向上が挙げられます。フロントノーズには、レギュレーションで認められた化粧板（バニティパネル）が装着され、前年モデルであるF2012で見られたような段差が解消されました。ノーズ下面には空気を効率的に取り込むためのエアダクトを配置。これは、ダウンフォースの増加に大きく貢献しています。

シャーシ前半部分は、前年モデルであるF2012と共通のプルロッド式サスペンションを採用。一方、後半部分、特にリアサスペンションは大幅な改良が施されました。リアサスペンションのアームやロッド配置、ドライブシャフトの整流カバーなど、レッドブル・レーシングのマシンにも似たレイアウトを採用することで、空力効率の最適化が図られています。さらに、リアウィングの翼端板には縦方向のスリットが2列刻まれ、空力特性の微調整が行われました。

カラーリングも変更され、フェラーリのシンボルカラーである深紅をベースに、白と黒のラインを追加。これにより、より洗練されたイメージへと変貌を遂げました。

スペック詳細

シャーシ

シャーシ名: F138
シャーシ構造: カーボンファイバー/ハニカムコンポジット構造
ギアボックス: フェラーリ製 縦置き セミオートマチック・シーケンシャル電子制御（クイックシフト） 7速＋リバース1速
ブレーキキャリパー: ブレンボ
ブレーキディスク・パッド: ブレンボ ベンチレーテッド式カーボンファイバーディスクブレーキ
サスペンション: 前後独立懸架 プルロッド式トーションスプリング
ホイール: O・Z 13インチ
重量: 642kg（冷却水・潤滑油・ドライバーを含む）
タイヤ: ピレリ P-Zero

エンジン

エンジン名: フェラーリ Tipo056
気筒数・角度: V型8気筒・90度
排気量: 2,398cc
最高回転数: 18,000rpm（レギュレーションで規定）
シリンダーブロック: 砂型鋳造アルミニウム製
バルブ数: 32
バルブ駆動: 圧搾空気式
ピストンボア: 98mm
重量: 95kg
燃料: シェル V-Power
潤滑油: シェル Helix Ultra

F138は、V8エンジンの最後の輝きを放つマシンとして、フェラーリの技術力の集大成を示す一台でした。翌2014年からの新たなレギュレーションへの対応という大きな課題を前に、このマシンはフェラーリの技術陣にとって貴重な経験とデータを提供したと言えるでしょう。そして、その経験は、後のターボエンジン時代におけるフェラーリの更なる進化へと繋がっていったのです。

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