フェラーリ・SF90

フェラーリSF90：2019年シーズンの軌跡

2019年F1世界選手権を戦ったスクーデリア・フェラーリのマシン、SF90。チーム創設90周年を記念して名付けられたこのマシンは、高い期待を背負いながら、ドラマチックなシーズンを駆け抜けた。その開発から、シーズン中の活躍、そして浮き彫りになった課題まで、SF90の軌跡を詳細に見ていこう。

開発とデザイン

2019年2月15日、マラネロでベールを脱いだSF90。伝統のイタリアンレッドは、軽量化を追求し、マット塗装のやや濃い赤となった。スポンサーであるフィリップモリス社の「Mission Winnow」ロゴを配したデザインだったが、たばこ広告規制の問題から、開幕戦オーストラリアGPではロゴを削除し、特別カラーリングで臨むこととなった。その後は、規制の厳しい国ではロゴを一時的に削除するなど、複雑なシーズンを過ごした。

エアロダイナミクス面では、新レギュレーションに対応するため、インダクションボックスの小型化や冷却系の改良など、徹底的な軽量化と低重心化が図られた。サイドポッドの形状にも特徴があり、アウトウォッシュ（車体後方への気流）の管理を重視したデザインとなっている。パワーユニットは「064」と名付けられた。セバスチャン・ベッテルは、このマシンを「Lina（リーナ）」と命名した。

ドライバーとチーム体制

ドライバーは、ベッテルが続投し、FDA出身のシャルル・ルクレールがザウバーから移籍。チーム代表には、マウリツィオ・アリバベーネからマッティア・ビノットが就任した。プレシーズンテストでは、メルセデスを上回る速さを見せ、タイトル争いの本命と目された。

シーズン前半：期待と苦戦

しかし、開幕戦オーストラリアGPではメルセデス勢に遅れを取り、レッドブルのマックス・フェルスタッペンにも抜かれるなど、不調に終わった。ベッテルは無線で不満を漏らすほどだった。マシンのバランス調整、コース特性への対応、そしてタイヤ戦略のミスなどが敗因として挙げられた。

第2戦バーレーンGPではルクレールがポールポジションを獲得し、優勝目前まで迫ったが、コントロールエレクトロニクスのトラブルで勝利を逃した。その後もメルセデス勢を相手に苦戦が続き、マシンコンセプト自体に課題があることが露呈した。ビノット代表も、マシンコンセプトの誤りを認めた。ダウンフォースとグリップの不足が大きな問題となっていた。

シーズン前半は、マシンの特性に加え、予選や決勝での戦略ミス、ピット作業のミスなど、チーム側のミスも響いた。優勝や表彰台獲得のチャンスを何度も逃す結果となった。マーク・ウェバーは、マシンの速さだけでなく、戦略の悪さも問題だと指摘した。

シーズン中盤：ルクレールの躍進

いくつかのミスやトラブルに見舞われながらも、高速サーキットでは高い競争力を発揮した。第13戦ベルギーGPではルクレールがF1初優勝を飾ると、続く第14戦イタリアGPでも優勝。2010年以来のホームグランプリ勝利となった。第15戦シンガポールGPでは、低速サーキットに対応するためアップデートを導入。ベッテルが今季初優勝を果たし、チームは3連勝を達成した。

シーズン後半：失速と課題

しかし、この反撃は長くは続かなかった。第16戦ロシアGP以降は、レース戦略やドライバー管理の迷走が深刻化。チーム内の不協和音が表面化し、チームオーダーに固執するあまりメルセデス勢に逆転を許す場面もあった。

さらに、PUレギュレーション違反疑惑も浮上。追加の検証が行われた結果、マシン性能が低下し、精彩を欠くこととなった。第20戦ブラジルGPではドライバー同士の接触事故も発生した。ビノット代表は、ダウンフォースの重要性を軽視したマシン開発が不振を招いたと語った。

まとめ

SF90は、予選での速さ（9回のポールポジション）は示したが、勝利数は3回にとどまった。シーズンを通して、マシンの特性だけでなく、チーム運営、特に戦略やドライバー管理における課題が改めて浮き彫りとなったシーズンだったと言えるだろう。

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