フェリックス・デュジャルダン

フェリックス・デュジャルダン

概要

フェリックス・デュジャルダン（Félix Dujardin、1801年4月5日 - 1860年4月8日）は、19世紀フランスの多分野にわたる自然科学者です。特に動物学、なかでも微小な原生動物の研究で重要な業績を残しました。地質学、化学、植物学にも造詣が深く、幅広い探求を行いました。

生涯

デュジャルダンは1801年にトゥールで生まれました。父や祖父が時計職人であった家系で育ち、幼い頃から精密な作業を通じて手先の器用さを培いました。トゥールのコレージュで学び、医師から解剖学や博物学に触れたことで科学に興味を持ちます。化学者フルクロアの著書や、テナールの教科書・実験室での学びを経て化学に専念した時期もありましたが、1818年のエコール・ポリテクニーク受験には不合格でした。

故郷トゥールに戻り司書として働きながら、余暇に科学研究を続けました。第三紀層の地層や化石に関する彼の初期の論文は、イギリスの高名な地質学者チャールズ・ライエルの注目を得ました。1826年から1829年にはトゥールで応用科学などを教え、光学や結晶学、植物学の研究も行い、1833年には『アンドル＝エ＝ロワール県の植物総覧』の共著者となります。植物学者のアンリ・デュトローシェの助言を得て動物学へと軸足を移すためパリへ。数年間は雑誌や百科事典の記事執筆で生計を立てました。

1839年にトゥルーズ大学の地質学・鉱物学の職を得て、1840年にはレンヌの新設自然科学学部で動物学・植物学教授、後に学部長を務めますが、同僚との軋轢から1842年に辞職しています。

研究業績：原生動物と「肉質（サルコード）」

デュジャルダンの最も顕著な業績は、顕微鏡を用いた微小動物、特に単細胞生物（原生動物）の研究です。当時、これらの生物の理解は限定的でしたが、彼は精力的に観察を行いました。1834年には、アメーバなどに代表される単細胞生物群を「根足虫類（Rhizopoda）」として分類することを提唱しました。

彼は特に、有孔虫などの原生動物を生きた状態で詳細に観察しました。微細な解剖針を用いてこれらの生物を圧迫すると、体内から粘り気のある透明な物質が押し出され、この物質がまるで生きているかのように動くことを発見します。デュジャルダンはこの物質を「肉質（sarcode）」と名付け、1835年に発表しました。彼は、この肉質こそがこれらの微小な生物の生命活動を担う根源的な物質であると考えました。この「肉質」の概念は、その後の生物学、特に細胞研究において非常に重要視されるようになり、ドイツの植物学者フーゴ・フォン・モールらによって「原形質（Protoplasma）」と呼ばれる物質の発見へと繋がりました。デュジャルダンの観察は、細胞の内部を満たす物質の機能に着目した画期的なものでしたが、彼はシュライデンやシュワンによって提唱されていた「細胞」という枠組みで自身の発見を捉えるまでには至りませんでした。

また、彼は節足動物の神経系についても研究を行い、1850年には昆虫の脳内に存在するキノコ体（学習や記憶に関与すると考えられる構造）に関する報告も行っています。

主な著作

Histoire naturelle des zoophytes. Infusoires... (1841) - 原生動物に関する代表作
Histoire naturelle des helminthes ou vers intestinaux (1845) - 寄生虫に関する著作

フェリックス・デュジャルダンの研究は、多様な分野に及びましたが、特に原生動物における「肉質（サルコード）」の発見は、後の細胞生物学、特に原形質の理解への道を開く重要な貢献となりました。

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