フェリックス・デュバン

フェリックス・デュバン

フェリックス・デュバン（Jacques Félix Duban, 1798年10月14日 - 1870年10月8日）は、19世紀フランスを代表する重要な建築家の一人です。

エコール・デ・ボザールにおける「ネオ・グレコ」と呼ばれる世代を代表する建築家として名を馳せました。特に、創設されて間もない1823年に、若くして権威あるローマ賞を獲得したことは、彼の建築家としての類稀な才能の早期開花を示す出来事でした。当時の建築界で主流であった先輩世代の建築家たちが、ルネサンス期のイタリア建築の巨匠であるパッラーディオやヴィニョーラなどの古典規範の研究に深く没頭していたのに対し、デュバンはより多様で個性的な源泉に目を向けました。

彼は、ルネサンス初期の建築家ブラマンテの洗練された様式や、フィレンツェ建築の優美さに深く魅了される一方で、遠く離れたインドのボンベイ（現ムンバイ）にある古代遺跡に見られる華麗で繊細な装飾にも強い関心を寄せました。これらの多様な関心は、ローマからの帰国後の彼の建築作品に色濃く反映されることとなります。デュバンは、単なる古典的な形態の模倣にとどまらず、色彩を積極的に用いることで、生き生きとした鮮やかな建築空間を創り出しました。これは、当時の建築界において、厳格な古典主義の中に新しい息吹をもたらす革新的な試みであったと言えます。

彼の建築家としてのキャリアにおいて特筆すべきプロジェクトの一つに、パリの歴史的建造物であるサント・シャペルの修復事業があります。このプロジェクトにおいて、彼はゴシック様式に対する深い理解と敬意を示すとともに、歴史的な証拠が明確ではなかった失われた尖塔を、自らの建築的創造力と解釈に基づいて再構築するという大胆な手法を用いました。これは、単なる過去の再現に終わらない、修復に対する彼の主体的な姿勢と確かなデザイン力を示すものでした。

また、デュバンは教育者としても建築界に大きな影響を与えました。1830年から1854年までの長期にわたり、彼は義理の兄の後を継ぐ形で、自身のアトリエを主宰する「パトロン」としての地位を確立し、多くの若手建築家を育成しました。さらに、彼自身が深く関わったエコール・デ・ボザールの校舎設計を手がけるなど、フランスの建築教育の中心的な人物としても活躍しました。

彼の代表的な作品には、以下のものがあります。

エコール・デ・ボザール校舎（パリ、1832年 - 1864年）
ブルタレス邸館（パリ、1836年）
サント・シャペル修復（パリ、1839年）
モレ邸館改築（パリ、1841年 - 1842年）
ルーヴル宮改築（パリ、1849年）

デュバンの業績は、19世紀フランス建築史において重要な位置を占めており、その影響は現代の建築研究においても論じられています。

参考文献

The Beaux-arts and Nineteen Century French Architecture, London, 1982

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