フェリックス・ヌスバウム

フェリックス・ヌスバウム（1904年12月11日 - 1944年8月9日）は、ユダヤ系ドイツ人の画家であり、シュールレアリスムの作風で知られています。彼は、ナチス政権下の迫害により、アウシュヴィッツ強制収容所で命を落としました。

生い立ちと初期の芸術活動

ヌスバウムは、ドイツのオスナブリュックで、金属商を営むユダヤ系の家庭に生まれました。芸術を愛する家庭環境で育ち、父親はアマチュア画家で、フィンセント・ファン・ゴッホを高く評価していました。幼少期には、家族と北海の島やベルギーの海岸で夏を過ごし、自然に触れる中で絵画への関心を深めていきました。1922年からはハンブルクの美術学校で学び始め、翌年にはベルリンの美術学校へ転校。パウル・プロンケやセザール・クラインに師事し、ハンス・マイトの修士課程を修了しました。1929年にはベルリンの画廊で初の個展を開催しました。

作風の変遷と出会い

初期のヌスバウムの作風は、ゴッホの影響を受けていましたが、後にアンリ・ルソー、ジョルジョ・デ・キリコ、カール・ホーファーといった画家たちに関心を移していきます。この時期には、後に妻となるポーランド人画家フェリカ・プラテックと出会いました。ゴッホの影響から脱却するため、ゴッホが晩年を過ごした南フランスを旅行したとも伝えられています。

ナチス政権下での逃亡生活

ベルリンで画家として活動を始めたヌスバウムは、1932年にVilla Massimo Prizeを受賞し、ローマでの奨学金を得て移住しました。しかし、1933年にアドルフ・ヒトラーがドイツで権力を掌握したため、帰国を断念。ローマからスイス、フランスを経由し、ベルギーのオーステンデに滞在しました。オーステンデでフェリカ・プラテックと再会し、1937年にブリュッセルで結婚しました。ベルギーの彫刻家とも親交を深め、展覧会に参加するなど、創作活動を続けました。1938年にはパリで開催された「自由ドイツ展」にも出展しています。

悲劇的な最期

第二次世界大戦が勃発すると、ヌスバウムはベルギー市民権を持たないドイツ人として、南フランスの収容所に収容されました。フランス降伏後、収容所から脱出しブリュッセルへ逃れ、4年間潜伏生活を送りました。しかし、1944年6月にドイツ軍に逮捕され、アウシュヴィッツ強制収容所へ送られました。ヌスバウムとフェリカ・プラテックは、1944年8月2日にガス室で命を絶たれました。

戦後の再評価と顕彰

ヌスバウムは、長い間忘れられた画家でしたが、1970年代に再発見され、第二次世界大戦中に描かれた作品も高く評価されるようになりました。生誕地のオスナブリュック市では、1980年代からヌスバウムの顕彰活動や作品収集に取り組み、1998年には個人美術館であるフェリックス・ヌスバウム美術館（フェリックス・ヌスバウム・ハウス）が開館しました。この美術館は、ベルリン・ユダヤ博物館も設計した建築家ダニエル・リベスキンドによって設計されました。

ヌスバウムの作品について

ヌスバウムの作品は、初期にはゴッホの影響を受けた表現主義的なスタイルが見られましたが、次第にシュールレアリスムの要素を取り入れるようになりました。彼は、自身の経験や感情、そしてナチス政権下のユダヤ人としての不安や恐怖を、象徴的なイメージを用いて表現しました。特に、晩年に描かれた作品には、自身の死を予感するような悲痛な感情が込められています。彼の作品は、単なる美術作品としてだけでなく、歴史的な証言としても重要な価値を持っています。

主な参考文献

Fritz Steinfeld, "Vergast – nicht vergessen. Erinnerungen an den Malerfreund Felix Nussbaum", 1984.
Rosamunde Neugebauer, "Zeit im Blick. Felix Nussbaum und die Moderne", 2005.
* Mark Schaevers, "Orgelman. Felix Nussbaum, een schildersleven", 2014.

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