フェルウィディコックス目

フェルウィディコックス目（Fervidicoccales）

フェルウィディコックス目（学名：Fervidicoccales）は、古細菌の中でも特に極限環境に生息することで知られるクレン古細菌門に属する分類群です。具体的には、クレン古細菌門に含まれるテルモプロテウス綱の中に位置づけられています。この目は比較的近年、2010年に新たな分類単位として提唱・記載されました。

この目は創設されて以降、含まれる種の発見は限られており、2018年9月時点において、学術的に正式に記載され、存在が確認されている種は、*フェルウィディコックス・フォンティス（Fervidicoccus fontis）*というただ一つの種のみです。このことは、この分類群が非常に特殊な環境に生息していること、あるいはまだ十分に研究が進んでいないことを示唆しています。

唯一の既知種：フェルウィディコックス・フォンティスの特徴

フェルウィディコックス・フォンティスは、その名の通り「泉」に関連する場所、具体的にはロシア連邦のカムチャッカ半島に位置するウゾンカルデラの温泉地帯から初めて単離・発見されました。この地域は火山活動が活発で、高温の熱水環境が豊富に存在する場所です。

本種の細胞の形態は、直径がおよそ1マイクロメートル（μm）から3マイクロメートル程度の、比較的小さな球状をしています。顕微鏡下では、単独あるいは集合して存在している様子が観察されます。

生育に関する生理的特徴としては、極めて高い温度を好む「超好熱菌」に分類されます。生育が可能な温度範囲は幅広く、最低55℃から最高85℃までの高温域で増殖が確認されています。その中でも、最も活発に増殖する最適な温度は67℃から70℃の範囲とされています。このような高温環境への適応は、発見場所である温泉という環境と密接に関連しています。

また、本種は酸素が存在しない環境、すなわち嫌気的な条件下で増殖します。そして、自身のエネルギー源や細胞を構成するための炭素源として、外部の有機物を利用する「従属栄養」的な性質を持ちます。特に、ペプチドなどの比較的複雑な有機化合物を分解して利用することが示されており、培地として用いる際にはこれらの成分を含む複雑な有機培地が必要です。

ゲノム情報

フェルウィディコックス・フォンティスの代表的な株であるKam940T株については、その全ゲノムの塩基配列が2014年に詳細に解析され、その情報が報告されています。ゲノムのサイズは、約131万9206塩基対と比較的小さく、その中にコードされていると予測される遺伝子（オープンリーディングフレーム、ORF）は1385ヶ所特定されました。ゲノム情報の解析は、この微生物が持つ代謝能力、環境適応戦略、そして進化的な背景を理解するための重要な手掛かりとなります。

系統学的位置

系統解析の結果に基づくと、フェルウィディコックス目は、同じテルモプロテウス綱に含まれる他の目、例えばデスルフロコックス目（Desulfurococcales）やアキディロブス目（Acidilobales）といった分類群と比較的近縁な関係にあることが示唆されています。これらの近縁な目もまた、高温環境に生息する極限環境微生物を多く含んでいます。

まとめ

フェルウィディコックス目は、クレン古細菌門テルモプロテウス綱に属する、2010年に記載された比較的新しい分類群です。2018年時点では、カムチャッカ半島の温泉から発見された超好熱・嫌気従属栄養性の球菌であるフェルウィディコックス・フォンティス1種のみが知られています。ゲノム情報も解析されており、その特殊な生理機能や系統的な位置づけが明らかになりつつあります。今後の研究により、この目における新たな種の発見や、その生態・進化に関する詳細な知見が得られることが期待されます。

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