フェルディナンド・パエール

フェルディナンド・パエール

フェルディナンド・パエール（Ferdinando Paer、またはPaer）は、1771年6月1日にイタリアのパルマで生まれ、1839年5月3日に世を去った作曲家です。専門的な表記としては「パーエル」とも綴られます。後に音楽界の巨匠となるフランツ・リストの指導者として後世に名を残しています。

音楽的キャリアの始まりとイタリアでの成功

幼少期にヴァイオリン奏者のギレッティから楽理を学んだパエールは、驚くべき早熟さを示しました。わずか16歳で最初のオペラ《La Locanda de vagebon-di》（放浪者の宿）が出版され、これを皮切りに次々とオペラを発表。その名は瞬く間にイタリア全土に響き渡り、才能ある若手作曲家としての地位を確立しました。

ウィーン、そしてドレスデン宮廷での活躍

1797年、パエールは夫人で声楽家のリッカルディと共にウィーンへ渡ります。夫人は当地の歌劇場と契約しており、パエールもここで自作のオペラを精力的に上演しました。このウィーン時代に生まれた主要な作品には、1799年の《La Camila ossia il Sotteraneo》（カミッラ、または地下の洞窟）や、1801年の《Achille》（アキッレ）などがあります。

1803年には、ザクセン選帝侯の招聘を受け、ドレスデン宮廷劇場の専属作曲家となります。夫人も歌手として共に迎え入れられました。ドレスデンでの功績が認められ、翌1804年には選帝侯から終身の宮廷楽長という栄誉ある称号を授与されています。

このドレスデン時代には、ベートーヴェンの有名なオペラ《フィデリオ》と同じ台本を用いて、自身のオペラ《レオノーラ》（正式名称：《レオノーラ、または夫婦の愛》）を作曲しています。これは、当時の音楽界における台本を巡る興味深い事例の一つです。

ナポレオンとの関係とパリへの進出

1807年、ドレスデンを訪れていたフランス皇帝ナポレオン・ボナパルトの知遇を得たパエールは、その寵愛を受け、ワルシャワやパリへの遠征に随行しました。この関係を通じて、彼は年間2万8千フランという破格の俸給を得ることになります。

1812年にはパリに移り住み、著名な作曲家スポンティーニの後任として、パリのイタリア劇場の指揮者に就任しました。この役職はフランスの王政復古後も継続され、さらにオルレアン公の私設オーケストラの指揮者や、ルイ18世の宮廷作曲家といった要職も兼任しました。彼はフランスの音楽界においても中心的な存在となっていったのです。

ロッシーニの台頭と晩年

しかし、1820年代に入ると、より革新的な作風を持つジョアキーノ・ロッシーニの人気が急速に高まります。1823年、ロッシーニの圧倒的な勢いに押される形で、パエールはイタリア劇場の指揮者の座を退きました。

同年、パリを訪れていた若き天才フランツ・リストに音楽の手ほどきを与えたことは、彼の生涯における重要な出来事として記憶されています。晩年も音楽界との関わりは続き、1831年にはフランス学士院の会員に選出され、同年には新たに即位したルイ・フィリップ王の宮廷楽団の指揮者にも任命されています。

作品とその評価

パエールは、先行世代のイタリア人作曲家であるパイジェッロやチマローザの様式を受け継ぎ、生涯で実に43曲ものオペラを作曲しました。オペラ以外にも、9曲の宗教音楽や13曲のカンタータ、さらに管弦楽や室内楽などの器楽曲も若干残していますが、これらはオペラに比べて重要度は低いとされています。

彼の作品は、メロディの流麗さや劇場的な効果に重点を置いた、当時の聴衆には魅力的なものでしたが、音楽史的な深遠さや革新性には乏しいという評価が一般的です。そのため、パエールの音楽は生前は絶大な人気を博しましたが、その「浅薄」とも評される特徴ゆえに、残念ながら死後急速に忘れ去られ、後世に残る普遍的な価値を持つ作品は少ないとされています。

主要作品例:

歌劇:
カミッラ、または地下の洞窟
レオノーラ、または夫婦の愛
捨てられたディドーネ
宮廷楽長、または不意の夜食
協奏曲:
オルガン協奏曲 ニ長調
吹奏楽曲:
* ナポレオンとマリー・ルイーズの結婚のための大行進曲

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