フェルディナンド1世・デ・メディチ

フェルディナンド1世・デ・メディチ：トスカーナ大公国の再興者

フェルディナンド1世・デ・メディチ（1549年7月30日 - 1609年2月3日）は、メディチ家の第3代トスカーナ大公であり、1587年から1609年までその地位にありました。初代トスカーナ大公コジモ1世とエレオノーラ・ディ・トレドの五男として生まれ、第2代大公フランチェスコ1世の弟にあたります。

枢機卿から大公へ

フェルディナンドは15歳という若さでカトリック教会の枢機卿に任命されました。しかし、1587年10月、兄であるフランチェスコ1世夫妻が急死したことを受け、メディチ家の当主となるべく枢機卿の地位を返上し、トスカーナ大公の座に就きました。兄夫妻の死因については、マラリアによる病死説が有力ですが、フェルディナンドによる毒殺説も囁かれるなど、当時から謎とされていました。近年では、フランチェスコ1世に関してはマラリアが死因であるという報告がなされています。

積極的な内政と外交

大公となったフェルディナンドは、兄フランチェスコ1世とは対照的に、政治を重視しました。枢機卿時代の経験と人脈を活かし、積極的に内政・外交を展開しました。特にスペインからの外交的自立性を高めることに尽力し、農地の開墾や産業の振興を進めました。また、港町リヴォルノを自由貿易港として関税を免除することで、貿易を活性化させました。これらの政策により、兄の時代に低迷していたトスカーナ大公国の経済は目覚ましい回復を遂げ、国庫収入は増加、首都フィレンツェの人口も7万人台に回復しました。

文化と芸術の保護

フェルディナンド1世は、メディチ家の伝統ともいえる文芸・芸術の保護・振興にも力を注ぎました。積極的な建設事業を行い、文化的な繁栄を牽引しました。また、外交にも才覚を発揮し、1600年には姪のマリア・デ・メディチ（マリー・ド・メディシス）をフランス王アンリ4世に嫁がせることでフランスとの結びつきを強め、1605年には元枢機卿という立場から、メディチ一族であるレオ11世をローマ教皇に選出させるなど、その影響力を見せつけました。

海外進出への試み

1608年には、南米ブラジルへ遠征隊を派遣し、アメリカ大陸で唯一のイタリア植民地を創設しようと試みました。しかし、この試みはフェルディナンド1世の死後に放棄され、植民地として想定された地域は、現在のフランス領ギアナとなりました。

メディチ家最後の繁栄

賢明な統治を行ったフェルディナンド1世は、市民からの人気も高く、1609年に60歳で病没しました。彼の治世は、メディチ家、トスカーナ大公国が繁栄を見せた最後の時代であり、彼の死後、トスカーナ大公国は徐々に衰退し、西欧の一小国へと転落することとなりました。

子女

フェルディナンド1世は、以下の子供たちをもうけました。

コジモ2世・デ・メディチ（1590年 - 1621年） - トスカーナ大公
エレオノーラ（1591年 - 1617年）
カテリーナ（1593年 - 1629年） - マントヴァ公フェルディナンド・ゴンザーガ妃
フランチェスコ（1594年 - 1614年）
カルロ（1595年 - 1666年） - 枢機卿
フィリッピーノ（1598年 - 1602年）
ロレンツォ（1599年 - 1648年）
マリーア・マッダレーナ（1600年 - 1633年）
クラウディア（1604年 - 1648年） - オーストリア大公レオポルト5世妃

フェルディナンド1世は、その卓越した政治手腕と文化的な貢献により、メディチ家の歴史において重要な人物として記憶されています。彼が築いたトスカーナ大公国の繁栄は、後の時代にまで影響を与え続けました。

参考文献

森田義之『メディチ家』（講談社現代新書　1999年）

もう一度検索