フェルディナン・ド・レセップス

フェルディナン・レセップス：スエズ運河建設の立役者とその波乱の人生

フェルディナン・レセップスは、19世紀のフランスを代表する外交官にして実業家であり、その名はスエズ運河建設に深く刻まれています。1805年、フランスのヴェルサイユで外交官の家庭に生まれ、幼少期から国際的な環境で育ちました。外交官の叔父の影響もあり、レセップス自身も外交官としての道を歩み始めます。

リスボンやチュニスでの領事勤務を経て、1833年、エジプトのアレキサンドリア副領事に就任。赴任途中の船上でコレラが発生し、隔離された経験が、後の彼の人生を大きく変えることになります。船上で暇つぶしに読んだフランス人技師の報告書から、スエズ運河建設という壮大な構想を思い描いたのです。

カイロ領事時代には、エジプト総督家の厚遇を受け、後のエジプト総督となるサイード・パシャの家庭教師を務めるなど、エジプト社会に深く根付いた関係を築きました。その後、マドリードの大使を務めた後、1849年に外交官の職を退きます。しかし、私生活では大きな不幸に見舞われ、妻や息子を失うという悲しみを経験しました。

失意の淵にいたレセップスでしたが、1854年、エジプトの新たな総督サイード・パシャ即位を機に、スエズ運河建設の構想を再び持ち上がります。かつての教え子であったサイード・パシャは、レセップスの提案に賛同。しかし、エジプトの宗主国であるオスマン帝国の承認が不可欠でした。オスマン帝国は、運河建設に反対しており、イギリスも自国の通商への影響を懸念し、様々な妨害工作を仕掛けました。

レセップスは、フランス皇帝ナポレオン3世やイギリスの首相パーマストンにも働きかけ、イギリス国内で講演会を開くなど、様々な努力をしました。着工は何度も遅延しましたが、レセップスは国際スエズ運河株式会社を設立。株式を売却することで国際的な支持を集め、1859年、オスマン帝国の承認を得ないまま、試験掘削の名目で工事に着手しました。

1863年、サイード・パシャが急死。後継のイスマーイール・パシャへのイギリスの圧力はさらに強まりましたが、フランス皇帝ナポレオン3世の仲裁もあり、難工事と疫病の蔓延という困難を克服し、1869年、スエズ運河はついに完成。盛大な開通式には、世界各国から7000名もの王族や名士が参列しました。スエズ運河会社は莫大な利益を上げ、レセップスは大きな成功を収めました。

晩年、レセップスはパナマ運河建設にも挑戦します。1881年、パナマ運河会社社長に就任。しかし、パナマでの工事は、黄熱病の猛威や経営の混乱、そして資金調達の難しさにより、困難の連続でした。富くじ付き債券の発行なども試みましたが、1889年、会社は破産。史上有名なパナマ疑獄事件へと発展し、レセップス自身も訴追されました。

1893年、最高法廷で無罪判決を受けましたが、事件への巻き込みと精神的な病により、1894年、レセップスは失意のうちに亡くなりました。スエズ運河建設という偉業を残した一方で、パナマ運河建設の失敗と疑獄事件という暗い影を背負った、波乱に満ちた生涯でした。レセップスの人生は、成功と失敗、栄光と挫折が複雑に絡み合った、ドラマチックな物語と言えるでしょう。

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