フェルナンド・デ・アウストリア (枢機卿)

フェルナンド・デ・アウストリア（1609/1610年 - 1641年）は、スペイン王フェリペ3世とマルガリータ妃の末子として生まれました。兄にフェリペ4世、姉にフランス王妃アンヌ・ドートリッシュ、神聖ローマ皇帝フェルディナント3世妃マリア・アナがいます。

父の意向で聖職者の道に進み、1619年にはトレド大司教、そして枢機卿王子となりました。しかし、他の王族と同様に政治活動にも関与しました。

1630年、伯母であるネーデルラント総督イサベルの後継者に指名され、ネーデルラントへと移ります。当時、ヨーロッパは三十年戦争の渦中にあり、フェルナンドは同族のオーストリア・ハプスブルク家を支援するため、ドイツで母方の従兄であり、姉マリア・アナの夫でもあるフェルディナントと合流しました。

1634年にはネルトリンゲンの戦いでスウェーデン・ハイルブロン同盟軍に勝利し、その軍事的な才能を示しました。しかし、ネーデルラントでは八十年戦争とフランス・スペイン戦争において、オランダとフランスの攻勢に押され、ブレダをはじめとする拠点を失いました。さらに、ポルトガル独立運動を鎮圧するための部隊をフランドル戦線から引き抜かれたことも、戦況を悪化させる要因となりました。

当時のスペイン軍は、資金難や戦術の変化に対応しきれておらず、かつて無敵を誇った陸軍の優位性は失われつつありました。フェルナンド自身も、スペイン宮廷からの不当な中傷に苦しめられました。彼がネーデルラントを独立させ王になるつもりだとか、還俗してフランス王女と結婚しルイ13世側に就くつもりだといった噂が流布されたのです。

最終的に、フェルナンドは病に倒れ、32歳という若さでブリュッセルで急逝しました。胃の持病が原因とされていますが、当時、毒殺説も囁かれました。遺体は1643年に故郷スペインに移送されました。

フェルナンド・デ・アウストリアは、スペイン・ハプスブルク朝において、アンブロジオ・スピノラ亡き後の最良の軍事司令官の一人と評されています。しかし、その生涯は、戦場での活躍だけでなく、政治的な陰謀や病との闘いにも彩られたものでした。

彼の生涯は、17世紀ヨーロッパの動乱期における、一人の貴族の苦悩と奮闘を象徴していると言えるでしょう。

ギャラリー

参考文献

シセリー・ヴェロニカ・ウェッジウッド著、瀬原義生訳 『ドイツ三十年戦争』 刀水書房、2003年。

関連項目

アラトリステ

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