フェロプラズマ属

Ferroplasma（フェロプラズマ属）

Ferroplasma（フェロプラズマ）は、極めて酸性の強い環境に適応した古細菌の一属です。分類学的には、テルモプラズマ目に属するフェロプラズマ科に含まれます。この属の古細菌は、細胞壁を持たないこと、非常に高い酸性度への耐性（好酸性）、そして重金属に対する強い耐性という三つの顕著な特徴を持っています。

分類と含まれる種

Ferroplasma属の分類は、過去に若干の変遷を経ています。かつては、F. acidiphilum 以外にもいくつかの種が認識されていましたが、2009年には "F. cupricumulans" という種が、フェロプラズマ科内の別属である Acidiplasma属の Acidiplasma cupricumulans として再分類されました。この結果、現在公式にFerroplasma属に属すると認められている種は、Ferroplasma acidiphilum のみが主となっています。しかしながら、自然界からは F. acidiphilum とは異なる性質を持つものの、詳細な分類が確定していない「未記載種」が複数発見されており、今後の研究によって新たな種が正式に記載される可能性も示唆されています。

形態的特徴

Ferroplasma属の古細菌の細胞は、多くの細菌や古細菌が持つ硬い細胞壁を持っていません。この細胞壁の欠如は、細胞の形状に大きな影響を与えています。細胞壁がないことで、細胞膜が柔軟になり、結果として細胞の形は一定せず、不規則で複雑な形状を示すことが多いです。一方で、運動性を担う鞭毛は持たないため、細胞は自力で活発に移動することはありません。

生理機能と代謝

Ferroplasmaは、主に酸素が存在する好気的な環境で生息し、エネルギーを獲得します。その代謝の中心は、2価の鉄イオン（Fe²⁺）を3価の鉄イオン（Fe³⁺）に酸化する化学合成独立栄養です。この鉄酸化反応によって得られるエネルギーを利用して、二酸化炭素などの無機炭素源から細胞成分を合成することができます。このように無機物から栄養を得る能力を持つ一方で、特定の有機物を利用する従属栄養的な増殖も可能であると考えられており、その栄養摂取様式は独立栄養と従属栄養の両方の側面を持つとされています。

極限環境への適応

Ferroplasma属の最も注目すべき特性の一つは、その極限環境への適応能力です。特に、以下のような過酷な条件下で生育できます。

強酸性: 最適な増殖pHは1.5程度と非常に低い値ですが、さらに驚異的なことにpH 0という、ほとんどの生物が生息できない強酸性環境でも増殖が報告されています。
高温: 増殖の最適温度は30℃から50℃の範囲であり、比較的高い温度にも適応しています。
* 高濃度金属: 銅、カドミウム、ヒ素、亜鉛といった、通常であれば細胞にとって極めて有毒となる重金属イオンが非常に高い濃度で存在する環境下でも生存・増殖することが可能です。この高い金属耐性は、酸性条件下で溶出しやすい金属イオンが多量に存在する生息環境への適応に不可欠な能力です。

生息環境

Ferroplasma属は、主に黄鉄鉱（鉄と硫黄の化合物）などが微生物によって酸化分解される際に生成される、非常に酸性の強い水環境から発見されます。具体的には、鉱山廃水や、鉱石を微生物の力で溶解・抽出するバイオリーチングのプロセスが進行しているような場所が主な生息地です。これらの環境は、pHが極めて低く、かつ溶出した重金属イオンが高濃度で存在する、他の生物にとっては極めて過酷な条件ですが、Ferroplasmaはこの独特の適応能力によって生態系の一部を担っています。

Ferroplasmaの研究は、生命がどのような極限環境まで適応できるかという基礎科学的な問いに対して重要な知見を提供するだけでなく、鉱山の環境浄化や金属回収といった応用分野においても関心が寄せられています。

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