フェーデ

中世ドイツにおけるフェーデ：私闘と社会秩序

中世ドイツにおいて、フェーデ（Fehde）は、個人が自身の権利侵害に対して、自力で報復を行う権利、すなわち私闘を指す重要な制度でした。これは、古代からの血族間の報復（血讐）を、中世法の枠組みの中で規定したものです。初期の中世では、フェーデは決まった場所と時間で、武力による決闘として行われ、事前に相手に決闘を申し込む「果たし状」のような形式が求められました。しかし、この制度は、次第に歪みを生じさせていきます。

フェーデの拡大と乱用

10世紀頃になると、フェーデは広く行われるようになり、その過程で、強盗騎士たちが交易商などに対して、でっち上げの理由でフェーデを仕掛け、略奪や身代金を要求するといった悪用が目立つようになりました。このようなフェーデの乱用は、社会秩序を脅かす深刻な問題へと発展します。

「神の平和」運動とフェーデ抑制

この状況を打破しようと、10世紀後半には南フランスで「神の平和」（Pax Dei）運動が始まり、11世紀にはフランス全土、そしてドイツへと広がっていきました。この運動は、当初は宗教的な動機から始まりましたが、次第に国王権力によるフェーデ規制という側面も強まっていきます。ハインリヒ3世やハインリヒ4世といったドイツの皇帝たちも、この運動の影響を受け、フェーデの抑制に動きます。1103年には、ハインリヒ4世がラント平和令を発布しましたが、これはフェーデを部分的に禁止するものであり、4年の時限付きでした。

ラント平和令とフェーデの終焉

しかし、国王や領邦領主が裁判権を掌握し、領域内の一元的な支配を確立するためには、フェーデの抑制が不可欠でした。そのため、ラント平和令は何度か更新され、1235年にはフリードリヒ2世によるマインツのラント平和令が、ドイツ語で初めて記述された法令として知られています。そして、1495年、マクシミリアン1世によって制定された永久ラント平和令によって、ついに帝国諸身分はフェーデを行う権利を完全に失いました。

フェーデ廃止の背景

フェーデが完全に禁止された背景には、制度の悪用が大きく関わっています。特に、合法的な手段として営利誘拐が行われるようになったことが大きな問題となりました。決闘状を事前に送るという本来のルールは無視され、襲撃後、人質を取ってから決闘状を送るという手法が横行し、身代金を要求することが常態化しました。そのため、貴重品輸送は、大規模な警備を必要とするようになり、フェーデに関わる者たちも、数十人規模から、時には300人を超える大規模な軍事組織へと発展していったのです。有名な鉄腕ゲッツことゲッツ・フォン・ベルリヒンゲンも、この制度を悪用した人物の一人です。強盗騎士が横行したローマ街道では、護衛を雇えない交易商は、迂回せざるを得ない状況でした。

まとめ

フェーデは、中世ドイツ社会における私闘の制度として、その発展と衰退の過程において、社会秩序や国家権力の形成に大きな影響を与えました。血讐という原始的な報復から始まったフェーデは、次第に悪用され、その抑制と最終的な廃止に至る歴史は、中世ドイツの社会構造や法制度の変遷を理解する上で、重要な要素となります。

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