フェートン号事件

フェートン号事件（1808年）

概要

フェートン号事件は、文化5年8月（1808年10月）に鎖国状態にある日本・長崎港で発生したイギリス軍艦の侵入を巡る問題です。この事件は、ナポレオン戦争の影響が遠く日本に及んだことを示す重要な歴史的事例です。

背景

1641年からオランダとのみ貿易を行う鎖国政策のもと、長崎出島に設置されたオランダ東インド会社の商館が唯一の外国との接点でした。一時はイギリスも平戸に商館を持ち、貿易を行っていましたが、オランダとの競争に敗れ、1623年にその商館を閉鎖。その後の再開試みも江戸幕府に阻止されていました。

18世紀末になると、フランス革命戦争が始まり、1793年にはオランダがフランスに占領されます。オランダ商館は無力化され、イギリスは亡命政府の依頼を受け、オランダの植民地接収を始めましたが、バタヴィアは依然としてフランスの支配下にありました。そこで、イギリスはアメリカの船を利用し、貿易を続けるという状況が生まれていました。

事件の経過

1808年10月4日、イギリス海軍のフリゲート艦フェートンが、オランダ国旗を掲げて長崎に入港しました。これはオランダ船を装っての行動で、オランダ商館の商館員が迎えに行くと、武装ボートに捕らえられるという事態が発生しました。フェートン号は一度オランダ国旗を掲げた後、イギリス国旗を掲示し、オランダ船を探すと称して港内を捜索しました。

長崎奉行所は直ちにフェートン号に対し商館員の解放を求めましたが、フェートン号は水や食料の提供を要求するばかりでした。商館員の生還を願うヘンドリック・ドゥーフ商館長は奉行所に避難し、戦闘の回避を勧めましたが、長崎の駐在兵が極めて少なかったため、松平康英は応援を呼ぶ必要がありました。

16日、ペリュー艦長は人質を一人釈放し、食料の要求を強めてきました。松平はやむを得ず要求に応じる方針を取り、食料を供給しましたが、これを利用されてフェートン号は出港の準備を進めます。この間に、大村藩の藩主の兵が駆けつけましたが、フェートン号は港を去り、事件は終息しました。

事件の結果

日本側に人的・物的被害はなく、オランダ人商館員は無事に解放されました。しかし、長崎奉行の松平康英は事態に対する責任を感じ、自ら命を絶ちました。また、長崎警備を怠っていた鍋島藩も責任を取り、数名の家老が切腹、さらに藩主には100日の閉門が命じられました。

この事件の後、ドゥーフや長崎奉行らによる外国船の取り扱いの強化が行われ、秘密信号旗が使われるなど、規制が厳しくなりました。この屈辱を受けた鍋島藩は次第に近代化を進め、明治維新では重要な役割を果たすことになります。また、知識人の間ではイギリスが「英夷」として研究対象になり、英語学習が奨励されるようになりました。

事件後の1811年には最初の英和辞書が完成し、幕府の取り組みも一層強化されることになりました。その後、イギリスはインドからジャワ島に遠征軍を派遣し、バタヴィアを攻略しますが、長崎のオランダ商館との連絡は途絶え、商館長は長期間孤立した状態で過ごすことになりました。

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