フォルクスワーゲン・EA266

フォルクスワーゲンEA266：幻のビートル後継車

フォルクスワーゲン・タイプ1（ビートル）の後継車開発は、1960年代後半、フォルクスワーゲン社にとって喫緊の課題でした。当時の社長、ハインリヒ・ノルトホフは、ビートルの改良だけでは不十分と考え、数多くの試作車を開発しました。その中に、ポルシェ社に設計を委託したEA266が存在します。

ポルシェとの協業と革新的な設計

1965年、ポルシェ社、そして当時同社に在籍していたフェルディナント・ピエヒによって設計が開始されたEA266は、1966年に完成しました。この試作車は、ミッドシップレイアウトに1.6L直列4気筒水冷エンジンを搭載するという、当時としては非常に斬新な設計思想を取り入れていました。エンジンは後部座席下に横置きされており、これにより低い重心と優れたハンドリングを実現していました。

充実の装備と高い安全性

EA266は、5人乗りの小型車ながら、驚くほど広いトランクルーム（400L）を備えていました。さらに、フロントノーズが空洞構造となっていたため、高い衝突安全性も確保されていました。居住性、安全性、ハンドリングと、どれをとっても高い水準を誇っていたと言えるでしょう。

開発中止の決定

莫大な開発費を投じて発売間近まで開発が進んだEA266でしたが、ノルトホフ社長の死去後、後任となったルドルフ・ライディングは、その高コストと整備性の悪さを理由に開発中止を決定しました。大衆車としての販売価格やメンテナンスコストの観点から、EA266は市場のニーズに合致しないと判断されたのです。

ゴルフ誕生への伏線

EA266の開発中止は、フォルクスワーゲンの歴史において大きな転換点となりました。その後のビートル後継車として登場したのが、私たちがよく知るゴルフです。EA266で培われた技術や設計思想は、後のゴルフ開発に少なからず影響を与えたと考えられます。EA266が世に出ることはなかったものの、その存在はゴルフという傑作を生み出す礎となったと言えるでしょう。

幻の試作車の公開

長く日の目を見ることのなかったEA266ですが、1987年にヴォルフスブルクのフォルクスワーゲン博物館の開館を機に一般公開されました。それまで謎に包まれていたEA266の姿が、ようやく世に知られることとなったのです。

ホンダZとの類似性

自動車ジャーナリストの福野礼一郎氏は、EA266と1998年発売の2代目ホンダZとの類似性を指摘しています。両車のデザインやレイアウトに共通点が見られることから、EA266の設計思想が後の自動車デザインにも影響を与えた可能性を示唆しています。

結論

フォルクスワーゲンEA266は、様々な技術革新と高い完成度を誇りながら、市場に出ることはありませんでした。しかし、その存在は、フォルクスワーゲンの歴史、そして自動車史において重要な位置を占めています。高い技術力と大胆な発想によって生み出されたEA266は、現代の自動車デザインや技術に影響を与え続けている、まさに「幻の車」と言えるでしょう。開発中止という残念な結果に終わったものの、その革新的な試みは、後世に大きな足跡を残しました。この試作車の存在を知ることで、我々は自動車技術の進歩と、その裏にある様々なドラマを垣間見ることができるのです。

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