フォルテピアノ

フォルテピアノとは、18世紀から19世紀前半にかけて製造された、初期の様式を持つピアノを指し、現代の一般的なピアノ、すなわちモダンピアノと区別するために使われる呼称です。ピアノという楽器の名称自体は、イタリア語で「優しくも大きくも鳴るチェンバロ」という意味を持つ言葉を短くしたもので、モダンピアノも本来はピアノフォルテあるいはフォルテピアノと呼ばれます。しかし、特に19世紀前半以前の様式の楽器を特定する際に、慣習的に「フォルテピアノ」という言葉が用いられています。

地域によってその呼称は異なり、英語圏、イタリア語圏、日本語圏などでは「フォルテピアノ」が一般的ですが、フランス語圏では「フォルテピアノ」または「ピアノフォルテ」、ドイツ語圏では「ハンマークラヴィーア」や「ハンマーフリューゲル」とも呼ばれます。一方、ロシア語やポーランド語など、一部の言語では現代のピアノも「フォルテピアノ」に相当する単語で呼んでいます。

構造と音

フォルテピアノは、革で覆われたハンマーや、チェンバロに近い細めの弦が特徴です。楽器の本体であるケースはモダンピアノに比べてかなり軽量で、後期のモデルを除き、モダンピアノのような金属フレームや頑丈な支柱はほとんど使用されていません。アクション（鍵盤からハンマーまでの機構）やハンマー自体も軽量に作られており、非常に軽いタッチで反応し、特に質の高い楽器では応答性が極めて優れています。

発明当初、楽器の音域は約4オクターヴでしたが、時代と共に徐々に拡大しました。モーツァルト（1756-1791）の作品は主に約5オクターヴの楽器のために書かれており、ベートーヴェン（1770-1827）の最晩年の作品では約6オクターヴに対応する楽器が想定されています。モダンピアノと同様のペダル機構はフォルテピアノの発明当初から存在しましたが、初期には足ではなく手や膝で操作するレバーを備えた楽器も見られました。

音色においても、フォルテピアノはモダンピアノとは異なる響きを持っています。タッチによる強弱の変化が可能である点は共通していますが、音はより軽快で、音が持続する時間は短めです。また、音域によって音色が大きく異なる傾向があり、一般的に低音域は優雅でわずかにうなるような響き、高音域はきらめくような明るい音、中音域はより丸みのある音色を奏でます。

歴史

フォルテピアノの歴史は、1700年頃にイタリアのフィレンツェで活動していたチェンバロ製作家、バルトロメオ・クリストフォリによる発明に始まります。彼は1720年代にかけてこの楽器の開発を続け、現存する3台のクリストフォリ作の楽器はこの時期のものです。クリストフォリの発明に関する最古の記録は、彼のパトロンであったメディチ家の1700年の目録に見られます。また、フェデリゴ・メッコリによる記述も、1700年にクリストフォリがこの楽器を発明したことを裏付けています。

クリストフォリが開発したアクションは、現代の視点から見ても精巧で優れており、後の多くの楽器よりも高度な機構を持つ側面があります。弦に適切な張力をかけるため、同時代のチェンバロよりも頑丈な構造を持ち、太めの弦がより高い張力で張られていました。弦は全音域で1音につき2本張られており、ハンマーが同時に複数の弦を打つ構造は現代のピアノにも引き継がれています。さらに、クリストフォリの楽器には、現代のソフトペダルに相当する、ハンマーが打つ弦の数を減らすためのハンドストップ機構も備わっていました。

クリストフォリの楽器は、1711年にフランチェスコ・スキピオーネによる記事によって広く知られるようになり、そのアクションの図解も掲載されました。この記事はドイツ語にも翻訳され、ドイツ語圏へのフォルテピアノ普及のきっかけの一つとなったと考えられています。しかし、チェンバロより製作が難しく高価であったため、当初の普及は緩やかでした。しばらくは王侯貴族の楽器であり、スペイン宮廷のバルバラ・デ・ブラガンサのように複数のフォルテピアノを所有する人物もいました。1732年にはロドヴィコ・ジュスティーニによる初のフォルテピアノ専用曲が出版されましたが、楽器が高価であったため、初期の専用曲市場は限定的でした。フォルテピアノが本格的に人気を集め、公開演奏や楽曲出版が盛んになるのは1760年代に入ってからです。

ドイツ語圏では、ゴットフリート・ジルバーマンがクリストフォリの設計に基づき1730年頃から製作を開始しました。彼はプロイセンのフリードリヒ大王の庇護を受けました。J.S.バッハはジルバーマンの楽器を最初は批判しましたが、後に評価を一変させた逸話が知られています。ジルバーマンは、全てのダンパーを一度に開放するダンパーペダルの原型となるハンドストップを開発したとされています。古典派の時代にかけて、この機構は膝レバーや足ペダルで操作できるようになりました。

ジルバーマンに続いたウィーンの製作家たちは、クリストフォリよりも簡潔なアクションを開発しました。中にはハンマーが打弦後に元の位置に戻るエスケープメント機構を欠くものもあり、モーツァルトから批判を受けたこともありました。しかし、こうした簡潔なアクションは製作が容易で、特にスクエア・ピアノに多く採用されました。

この時期の重要な製作家に、ジルバーマンの弟子であるヨハン・アンドレアス・シュタインがいます。シュタインは、ハンマーが鍵盤上に配置され、タッチに非常に敏感な「跳ね上げ式」アクションを開発しました。これは後に「ウィーン・アクション」として知られ、19世紀半ばまでウィーンで広く用いられました。ウィーン・アクションは構造が比較的単純でありながら、奏者の微妙なタッチに極めて敏感に反応します。打鍵に必要な力がモダンピアノの半分以下であると言われるほどで、演奏には強力な運動能力よりも繊細なタッチコントロールが要求されました。シュタインは木材に特別な処理を施すことで楽器の耐久性を高め、その寿命の長さはモーツァルトも評価しています。シュタインの事業は娘のナネッテ・シュトライヒャー夫妻によってウィーンで引き継がれ、ベートーヴェンも彼らのピアノを愛用しました。

ウィーン・スクールの他の重要な製作家として、アントン・ワルターがいます。彼はモーツァルトの友人であり、シュタインの楽器よりもやや力強い音色の楽器を製作しました。モーツァルトはシュタインのピアノを高く評価していましたが、自身が所有していたのはワルターの楽器でした。シュタインとワルターの楽器は、現代のフォルテピアノ製作において重要なモデルとなっています。また、コンラート・グラーフはベートーヴェンの最後のピアノを手がけた人物であり、ウィーンで初めてピアノの大量生産を大規模に行った一人です。

イギリスにおけるフォルテピアノ製作は、ヨハン・クリストフ・ツンペに始まります。彼はドイツから移住し、チェンバロ製作家シュディのもとで働いた後、1760年代半ば頃から安価なスクエア・ピアノの生産を始めました。ツンペのスクエア・ピアノはエスケープメントのない非常にシンプルなアクション（「老人の頭」と呼ばれた）を持っていました。技術的な革新への貢献は少ないものの、ツンペの楽器は人気を博し、チェンバロからピアノへの移行を促進しました。一方、アメリクス・バッカース、ジョン・ブロードウッド、ロバート・ストッダードらは、ツンペより改良された「イングリッシュ・グランド・アクション」を開発しました。このアクションはエスケープメントとハンマーの跳ね上がりを抑えるチェック機構を備え、ウィーン式よりも大きくしっかりとした響きを持っていますが、より深いタッチを必要としました。初期のイギリス製グランドピアノは、シュディのチェンバロに似た重厚で洗練された外観を持ち、ウィーン式（1音2弦）と異なり1音につき3弦を張っていました。ジョン・ブロードウッドはシュディの工房を継承し、ブロードウッド社としてフォルテピアノの発展に貢献し、今日まで続いています。ブロードウッド社はベートーヴェンにもピアノを贈り、彼もその楽器を愛用したとされています。

現代の再興

フォルテピアノはその後も技術改良を続け、現代のピアノへと姿を変えていきました。19世紀後半には古楽復興の先駆者であるアーノルド・ドルメッチがフォルテピアノを製作しましたが、当時は限定的な試みに留まりました。しかし、20世紀後半に入ると、古楽復興運動の中でチェンバロにやや遅れてフォルテピアノも本格的に再評価され始めました。現在では、古い楽器の修復や、歴史的なモデルに基づいた新しいフォルテピアノの製作が盛んに行われています。

フォルテピアノの再興により、18世紀から19世紀初頭の音楽を、作曲家が生きていた当時の楽器の響きで演奏する活動が活発化し、音楽の解釈にも大きな影響を与えています。多くの音楽教育機関でフォルテピアノのコースが開設され、ブルージュ古楽コンクールやショパン国際ピリオド楽器コンクールなど、フォルテピアノに焦点を当てた国際コンクールも開催されています。

現代では、モダンピアノ奏者やチェンバロ奏者だけでなく、フォルテピアノを専門とする多くの演奏家が活躍しており、数多くの録音を発表しています。

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