アーノルド・ドルメッチ

ユージン・ドルメッチ：20世紀古楽復興の父

ユージン・アーノルド・ドルメッチ (1858年2月24日 - 1940年2月28日) は、フランス生まれのイギリスで活躍した、20世紀における古楽復興を牽引した重要な人物です。演奏家として、そして卓越した楽器製作者として、古楽の世界に革命的な変化をもたらしました。彼の功績は、単なる演奏や製作にとどまらず、古楽の教育や普及にも及び、現代の古楽界の基礎を築いたと言えるでしょう。

幼少期と音楽教育

ドルメッチは、ボヘミアにルーツを持つフランスのピアノ製造業者の家庭に生まれました。幼い頃から家族の工房で楽器製作に携わり、その経験は後の彼の仕事に大きな影響を与えました。ブリュッセル音楽院でヴァイオリンを学び、その後ロンドンの王立音楽大学で研鑽を積んだ彼は、1889年に学士号を取得しています。

古楽への目覚めと楽器製作

卒業後はダリッジ・カレッジで音楽教師を務めていましたが、大英博物館で歴史的楽器を目にしたことがきっかけで、古楽器に強い関心を抱くようになりました。友人でありパトロンでもあったウィリアム・モリスの後押しを受け、チェンバロ製作に着手します。その後、彼はイギリスのみならず、アメリカやフランスの楽器工房でクラヴィコードやハープシコードなどの製作に携わり、その技術を磨いていきました。特に、アメリカ・ボストンのチッカリング社やフランスのガヴォー社での経験は、彼の楽器製作のキャリアにおいて重要な転換期となりました。ケンブリッジでの生活では、建築家や後援者たちの協力を得ながら、自身の設計を取り入れた工房を構え、マリー・アントワネットが所有していたスピネットなどの修復にも関わっています。これらの楽器は現在、エール大学楽器コレクションに収蔵されています。

ヘーズルミアの工房と古楽演奏

1910年代には、サリー州ヘーズルミアに自身の工房を設立。15世紀から18世紀までのヴィオール、リュート、リコーダー、鍵盤楽器など、あらゆる古楽器の製作と修復を行いました。単なる複製ではなく、演奏可能な状態に復元することに重点を置いており、その技術は高く評価されています。1915年には『17・18世紀の演奏解釈』を著し、オーセンティックな古楽演奏の理論的基礎を築きました。さらに、1925年には「国際ドルメッチ古楽音楽祭」を創設し、毎年ヘーズルミアで室内楽祭を開催するなど、古楽の普及にも尽力しました。

教育と普及活動

ドルメッチは、古楽演奏の普及に大きく貢献しました。特にリコーダーを学校教育に取り入れることを提唱し、アマチュア演奏家のための改良型リコーダーを開発するなど、広く一般の人々が古楽に親しむための環境づくりに力を注ぎました。また、ジョン・ジェンキンズやウィリアム・ローズといった、忘れられていたイギリスのヴィオール・コンソート作曲家の作品を再評価するなど、古楽のレパートリーを広げる活動にも貢献しました。

多彩な交友関係

彼はロンドンの芸術家たちと活発な交流を持ち、ウィリアム・モリスやジョージ・バーナード・ショーなど、当時を代表する文化人との親交も深めていました。こうした人脈は、彼の古楽復興運動を支える上で重要な役割を果たしました。

家族とその後

ドルメッチは3度の結婚を経験し、家族もまた古楽演奏家として活躍しました。妻メイベル、子供たちのルドルフ、ナタリー、カール・フレデリック、セシルは、ドルメッチの工房で製作された楽器を使用し、演奏活動やワークショップに参加しました。彼の死後も、家族によって古楽器製作と演奏の伝統は受け継がれ、現在まで続いています。

結論

ユージン・ドルメッチは、単なる楽器製作者や演奏家としてだけでなく、古楽復興運動の指導者として、現代の古楽界に計り知れない貢献をしました。彼の情熱と才能、そして家族の協力によって築き上げられた功績は、今後も古楽を愛する人々にとって、重要な遺産として受け継がれていくでしょう。彼の功績を称え、古楽の豊かな世界をこれからも大切に伝えていく必要があります。

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