フォークアート

フォークアートとは

フォークアート（Folk Art）は、特定の地域や文化に根ざした、独自性を持つ芸術形式です。これは、純粋な美の追求を目的とする美術とは異なり、日常生活の中で生まれた実用性と装飾性を兼ね備えたアートを指します。農民や職人といった労働者によって作られることが多く、その作品は、その土地の文化や価値観を色濃く反映しています。

フォークアートの特徴

フォークアートの特徴としてまず挙げられるのは、アカデミックな美術教育やファインアート界の動向に左右されない点です。そのため、様式が単純で、経験的なプロポーションや視覚的な規則にとらわれない、自由な表現が見られます。多くの場合、フォークアートは職業的なアーティストによる「高級アート」とはみなされず、美術コレクターの購入対象には含まれませんでした。しかし、18～19世紀のアメリカでは、旅回りの肖像画家など、フォークアートによって生計を立てていた人々もいました。彼らは多くの作品を残しており、フォークアートの歴史において重要な役割を果たしています。

フォークアートと関連する用語には、ナイーブアート、プリミティブ・アート、アウトサイダーアートなどがあり、これらの用語はしばしば「フォークアート」と互換的に使用されますが、それぞれ異なる意味合いを持っています。これらの用語を明確に区別することは難しいものの、フォークアートは、地域社会の共有する価値観や美学を伝え、文化の独自性を表すものであるという共通点があります。

素材には、布、木、紙、粘土、金属など、実用的なものが用いられます。伝統的な素材が入手困難な場合、新しい素材が代用されることもあり、これにより、伝統的なフォークアートのスタイルが現代的な表現で生まれ変わることもあります。

フォークアートは、民族、宗教、職業、地理的な場所など、多様なグループによって受け継がれてきた伝統的なアートの姿を反映しています。同じ地域内のグループ間では共通の要素が見られ、それが地域社会全体の特徴となっています。フォークアートの担い手は、日常生活の中で見習いをしながら技術を学び、時には正式な教育を受けることもあります。

古い時代のフォークアート

古い時代のフォークアートは、主流の美術とは一線を画していました。今日では、フォークアートの作品は芸術的な価値が認められ、収集対象となっていますが、制作された当初は「芸術のためのアート」を目指したものではありませんでした。例えば、風見鶏、店の看板、旅回りの肖像画家による絵画、メリーゴーラウンドの馬、消火バケツ、絵付けされたゲーム盤、鉄製のドアストッパーなど、多種多様なアイテムが「風変わりな」骨董品として収集されています。

現代のフォークアート

現代においても、キルト、装飾的な額縁、デコイ（狩猟用の鳥の模型）など、伝統的なフォークアートの品々は制作され続けており、新しい形も生まれています。1960年代には、装飾的な竹製パイプがアメリカで人気を博し、作者自身が街角で販売する姿が見られました。これらのパイプのデザインは、アフリカやボルネオの伝統的な竹パイプを彷彿とさせますが、アメリカの竹パイプは火皿に黄銅を使用している点が特徴的です。

1970年代以降には、サンフランシスコの路上アーティストであるダレル・パイプマン・モーティマーが、約10,000本の竹パイプに線彫りを施し、サインと製造番号を入れて販売しました。これらのパイプには、大麻、アメリカ先住民のモチーフ、あるいはヴィクトル・ヴァザルリやマウリッツ・エッシャーの作品を思わせるデザインが用いられています。

現代のフォークアーティストは、しばしば独学で技術を習得し、人里離れた場所や小さな地域社会で創作活動を行っています。スミソニアン・アメリカンアート美術館には、70人以上の現代フォークアーティストの作品が収蔵されています。1980年代初頭には、独特の芸術的才能を持つフォークアーティストが登場しました。その一人、フィリピン出身のエリート・チルカは、「アマンピントル」と名乗り、自身の髪を絵筆にし、血液を絵の具として使用するなど、独創的なスタイルを確立しました。

美術の本流への影響

フォークアートは、その表現形式やモチーフが、多くの芸術家にインスピレーションを与えてきました。パブロ・ピカソはアフリカの部族彫刻や仮面に影響を受け、ナタリア・ゴンチャロワはロシアの民衆版画「ルボーク」から影響を受けています。音楽界では、イーゴリ・ストラヴィンスキーが異教からインスピレーションを得て、有名な「春の祭典」を作曲しました。

このように、フォークアートは、特定の文化や地域に根ざした独自性を持つ芸術形式でありながら、美術や音楽といった様々な分野に影響を与え続けています。その多様な表現や歴史を理解することで、より豊かな文化理解につながるでしょう。

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