フォード・トリノ・タラデガ

フォード・トリノ・タラデガ：NASCARを席巻した伝説のエアロカー

フォード・トリノ・タラデガは、1969年、フォード社によって製造された特別な高性能車です。その名は、アラバマ州にあるタラデガ・スーパースピードウェイに由来しています。ベース車両はフォード・トリノですが、NASCARレース参戦のためのホモロゲーション取得という明確な目的を持って開発されました。そのため、生産台数はわずか754台という希少性も持ち合わせています。

空力性能を追求したデザイン

トリノ・タラデガの最大の特徴は、その空力性能を重視したボディデザインにあります。当時、NASCAR車両はフロントフェイスの凹面による空力特性の悪化に悩まされていました。トリノ・タラデガはこれを克服するため、フロントノーズを130mm延長し、全長5200mmのスマートなフロントセクションを実現。フロントグリルとバンパーは、空力抵抗を最小限に抑えるよう設計されました。さらに、ロッカーパネルも地面に近づくよう最適化され、徹底的な空力性能の向上が図られています。

強力なエンジンと独自のホモロゲーション戦略

搭載エンジンは、429ボスV8。これは、NASCARのレギュレーションにより使用禁止となった427SOHCエンジンの代替として選択されました。興味深いのは、そのホモロゲーション取得方法です。トリノ・タラデガには、レース使用を想定しないコブラジェット428V8を搭載して販売。同時に、429ボスV8を搭載したマスタング・ボス429を限定販売することで、エンジンのホモロゲーションを別途取得するという、戦略的な手法が取られました。

限定カラーとNASCARでの活躍

トリノ・タラデガのオプションはボディカラーのみ。ウィンブルドン・ホワイト、ロイヤル・マルーン、プレジデンタル・ブルーの3色が用意されました。

その圧倒的な性能により、1969年のNASCARシーズンでは29勝を挙げ、年間チャンピオンを獲得するなど、大活躍しました。トリノ・タラデガの成功は、ライバルメーカーであるクライスラーを刺激し、ダッジ・チャージャー500などのエアロカー開発競争へと繋がります。

エアロカー時代の幕開けと終焉

トリノ・タラデガは、エアロカー時代の先駆者であり、エアロ・ウォーリアの第一世代を代表する車種と言えるでしょう。しかし、1971年シーズン前にNASCARは大規模な空力付加物を禁止。これにより、トリノ・タラデガの活躍は幕を閉じました。フォードは、さらに改良されたフォード・トリノ・キングコブラの投入を計画しましたが、NASCARのレギュレーション変更により、それは幻に終わります。

コレクターアイテムとしての価値

現在、トリノ・タラデガはコレクターアイテムとして高く評価されています。しかし、同時代のダッジ・チャージャー・デイトナやプリムス・スーパーバードと比べると、取引価格はそれほど高騰していないと言われています。その理由の一つとして、トリノ・タラデガの比較的控えめなリアウイングが挙げられます。

トリノ・タラデガは、その短い活躍期間にもかかわらず、NASCARの歴史に大きな足跡を残した一台と言えるでしょう。空力性能を追求したデザインと強力なエンジン、そして数々の勝利は、今も多くの自動車ファンを魅了し続けています。

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