フォード・トリノ

フォード・トリノ：アメリカ中型車の歴史を彩る名車

フォード・トリノは、フォードモーターが1968年から1976年にかけて北米市場向けに生産した中型乗用車です。その車名は、イタリアのトリノ市に由来しています。大衆車として幅広い層に支持されたトリノですが、強力なエンジンを搭載した高性能モデルは、マッスルカーとして熱い注目を集めました。さらに、映画やテレビドラマへの出演を通して、世界中の人々にその名を広めました。

第1世代（1968-1969年）：フェアレーンの上級モデルとして

最初のトリノは、フォード・フェアレーンをベースに開発されました。当初はフェアレーンの上位モデルという位置づけでしたが、その魅力的なデザインと高い性能から、フォード中型車の中核的な存在へと成長していきました。最も人気を集めたのは4ドアセダンと4ドアハードトップでしたが、高性能モデルには大排気量のV8エンジンが搭載され、マッスルカーとしての地位を確立しました。NASCARレースへの参戦もトリノの成功に貢献し、その名声を高めました。

1968年モデルは、ワイドなフロントグリルと水平4灯ヘッドライトが特徴的なスタイリングでした。ボディは滑らかで、水平なプレスラインがアクセントとなっていました。ファストバックモデルは、空力特性の向上に大きく貢献し、レースにおいても優位性をもたらしました。多彩なエンジンオプションも魅力の一つで、最高出力335馬力の428コブラジェットV8エンジンも用意されていました。インテリアも一新され、4つのメーターポッドが並ぶ新しいダッシュボードや、通気性に優れたニット調ビニール内装など、充実した装備が用意されていました。

1969年モデルでは、マイナーチェンジが行われ、グリルやテールライトのデザインが変更されました。さらに、新たなスポーツモデル「コブラ」が追加されました。コブラは、標準で428コブラジェットV8エンジンを搭載し、優れたパフォーマンスを誇りました。トリノGTは、洗練された内外装とスポーティなハンドリングで高い評価を得ました。また、空力性能を追求した特別なモデル「タラデガ」がNASCAR参戦のために開発されました。

第2世代（1970-1971年）：トリノの独立

1970年、トリノはフォード中型車の代表モデルとなり、フェアレーンはトリノの派生モデルとなりました。この世代では、コークボトルスタイルを採用した、より長く、低く、幅広いボディデザインが特徴です。ロングノーズ・ショートデッキスタイルは、当時の超音速機のデザインからインスピレーションを得ていました。モデルラインナップも拡大し、ベースモデルのフェアレーン500から、高級仕様のブロアム、スポーツモデルのGT、高性能モデルのコブラまで、多彩なバリエーションが用意されました。また、エントリーモデルとしてファルコンが追加されました。

エンジンラインナップも刷新され、直列6気筒エンジンや様々なV8エンジンが用意されました。429スーパーコブラジェットエンジンは、最高峰のパワーを提供しました。インテリアも一新され、ドライバー正面に配置されたスピードメーターやオプションのタコメーターなど、より洗練されたデザインとなりました。トリノ・ブロアムは、豪華な内装と静粛性の高い乗り心地が特徴でした。トリノGTは、スポーティな装備と優れたハンドリングで高い評価を受けました。トリノ・コブラは、純粋な高性能モデルとして、4速マニュアルトランスミッションやハーストシフターなどを装備していました。

1971年モデルでは、フェアレーンとファルコンがラインナップから外れ、トリノはフォード中型車として完全に独立しました。スタイリングは、グリルやエンブレムにマイナーチェンジが施された程度で、ボディラインは1970年モデルとほぼ同じでした。エンジンラインナップは、1970年モデルとほぼ同じでしたが、排出ガス規制強化の影響を受け、一部エンジンの圧縮比が低下しました。それでも、トリノ・コブラは、強力な429コブラジェットエンジンを搭載し、優れたパフォーマンスを発揮しました。

第3世代（1972-1976年）：グラン・トリノの登場

1972年、トリノはフルモデルチェンジを行い、第3世代へと進化しました。この世代では、グラン・トリノという名称が採用され、特徴的な升型フロントグリルが目を引きました。ロングノーズ・ショートデッキスタイルがより強調され、スタイリッシュなデザインとなりました。ボディ構造は、モノコックからボディ・オン・フレームに変更されました。これにより、乗り心地が向上し、より静かで快適なドライブを実現しました。フロントディスクブレーキは全車標準装備となり、安全性能も向上しました。モデルラインナップは、ベースモデルのトリノ、中級グレードのグラン・トリノ、スポーツモデルのグラン・トリノ・スポーツ、高級モデルのグラン・トリノ・ブロアム、ステーションワゴンのグラン・トリノ・スクワイアなどが用意されました。

エンジンは、直列6気筒エンジンや複数のV8エンジンが用意されました。高性能エンジンとしては、351コブラジェットV8エンジンがラインナップされました。インテリアも一新され、ABS樹脂を多用した新しいメーターパネルや、快適なシートなどが装備されました。グラン・トリノ・スポーツは、スポーティな装備と優れたハンドリングが特徴でした。グラン・トリノ・ブロアムは、豪華な内装と充実した装備が魅力でした。

1973年モデルでは、新しい安全基準に対応したフロントフェイスに変更されました。大きな衝撃吸収バンパーが装備され、車体サイズは大きくなりました。1974年モデルでは、リアバンパーも安全基準に対応したデザインに変更されました。新たなモデルとして、グラン・トリノ・エリートが追加されました。1975年モデルでは、グラン・トリノ・エリートが独立車種となりました。排出ガス規制強化により、エンジン性能は低下しました。1976年モデルがトリノの最終モデルとなりました。グラン・トリノ・スポーツが廃止され、ラインナップが簡素化されました。テレビドラマ『刑事スタスキー&ハッチ』で赤いグラン・トリノが使用されたことで、再び注目を集めました。

NASCAR参戦

トリノは、NASCARレースでも活躍しました。特に、1968年から1969年にかけては、ファストバックモデルの優れた空力特性を活かし、スーパースピードウェイで高い競争力を発揮しました。1969年には、空力性能をさらに向上させた特別なモデル「タラデガ」が開発され、NASCARレースに参戦しました。1970年には、さらに空力性能を高めた「キングコブラ」の開発も計画されましたが、NASCARのレギュレーション変更により市販化はされませんでした。

アメリカにおける人気

アメリカでは、マッスルカーの人気が高いですが、トリノは他のマッスルカーほど高い評価を受けているわけではありませんでした。しかし、映画『グラン・トリノ』やTVドラマ『刑事スタスキー&ハッチ』への出演、そして希少性から、特定のモデルはコレクターズアイテムとして人気が高まっています。特に、1970-71年式トリノ・コブラ、1969年式トリノ・タラデガ、1970年式トリノ・キングコブラ、1968-71年式トリノGTコンバーチブル、1969年式コブラなどは、高値で取引されています。

まとめ

フォード・トリノは、大衆車としての成功と、マッスルカーとしての高い性能、そして映画やテレビドラマへの出演を通じて、アメリカ車史に大きな足跡を残した名車です。その魅力的なデザインと多彩なバリエーション、そして伝説的な高性能モデルは、今日でも多くのファンを魅了し続けています。耐久性や腐食問題などもあったものの、今日においても、希少なモデルは高い価値を持つコレクターズアイテムとして人気を博しています。

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