フサオマキザル

フサオマキザル（房尾巻猿）

フサオマキザル（学名：Cebus apella）は、オマキザル科オマキザル属に分類されるサルです。カッショクオマキザルとも呼ばれます。この記事では、フサオマキザルという種について解説しますが、かつて亜種として分類されていた他の種（C. flavius, C. libidinosus, C. nigritus, C. xanthosternos）の情報が含まれる場合があります。これらの種は現在では独立種として扱われていますが、過去の分類との対応については後述します。

名称

学名は Cebus apella です。和名ではフサオマキザル（房尾巻猿）やカッショクオマキザル（褐色尾巻猿）と呼ばれます。英語ではタフティドキャプチン（tufted capuchin）やブラウンキャプチン（brown capuchin）として知られています。また、ポルトガル語ではマカーコプレーゴ（macaco prego）またはマカーコ（macaco）、スペイン語ではミコマイセロ（mico maicero）またはマイセロ（maicero）と呼ばれています。アメリカ先住民の言語では、18もの異なる呼び名が存在します。グアラニー語では、カイ（cai）、カイタイア（caitaia）、カイアララ（caiarara）などと呼ばれています。

フサオマキザルの和名と英名は、頭部の両側にある逆立った黒い房毛に由来しています。カッショクオマキザルの和名と英名は、体色が全体的に褐色であることに由来します。

学名 Cebus apella の種小名 apella は、ローマの解放奴隷の名前アペッラにちなんでいますが、命名の意図は不明です。属名 Cebus の由来については、オマキザル属の記事を参照してください。

フサオマキザルは、その高い知能と柔軟性から、「南米の類人猿」や「南米のチンパンジー」とも呼ばれています。古くからサーカスや動物園で飼育され、また実験心理学の研究対象としても利用されています。

亜種と分布

フサオマキザル（Cebus apella）は、いくつかの亜種に分類されます。コリン・グローヴズの分類に従うと、以下の6亜種が挙げられます。

1. Cebus apella apella
2. Cebus apella fatuellus
3. Cebus apella margaritae
4. Cebus apella peruanus
5. Cebus apella tocantinus
6. Cebus apella versicolor

かつては、現在別種として分類されている種が、長らくフサオマキザルの亜種として扱われていました。以下に、新旧分類の対応を示します。

旧亜種 Cebus apella flavius → 新種 Cebus flavius
旧亜種 Cebus apella libidinosus → 新種 Cebus libidinosus
旧亜種 Cebus apella nigritus → 新種 Cebus nigritus
旧亜種 Cebus apella xanthosternos → 新種 Cebus xanthosternos

また、旧分類ではフサオマキザルの亜種として組み入れられるはずだったものの、実際には亜種とされなかった種も存在します。

形態

フサオマキザルの体長は30-56cm、尾長は35-56cm、体重は2-4kgです。オスはメスよりも大型になります。体毛は淡褐色または黒褐色で、四肢の体毛は黒い色をしています。頭部には、逆立った黒い房毛があります。

生態と行動

フサオマキザルは森林に生息し、小規模な群れを形成します。他の種類のサルと混群を形成することもあります。危険を感じると、口笛のような声を出して威嚇します。

知能が高く、心理学の研究に利用されています。道具を使ってシロップを傷口に塗ったり、野生ではコモンマーモセットの養育をしたりする珍しい行動も報告されています。

食性は雑食で、昆虫、鳥の卵、果実、種子などを食べます。群れの中で最も地位の高いオスが最初に食事をし、次いで親しい個体が食事をします。地位の低い個体は、優位な個体が去った後に食事をします。木を叩いて虫の居場所を探るなど、採食行動においても高い知能を発揮します。

繁殖は胎生で、隔年に1頭の幼獣を産みます。母親だけでなく、群れの他の個体も子育てに協力します。

天敵は、ジャガー、ピューマ、大型の猛禽類です。

野生での道具使用

フサオマキザルの道具使用は、動物行動学や比較心理学において重要な研究対象です。道具使用は、単に物を操作するだけでなく、道具と他の物体との関係を作り出す行為と定義されます。

歴史的には、16世紀からヨーロッパで知られており、18-19世紀には、エラズマス・ダーウィンやジョージ・ロマーニズなどの学者によって観察・研究されてきました。20世紀前半には、ハインリヒ・クリューヴァーが体系的な研究を行っています。

1976年には、伊沢紘生と水野昭憲が、野生のフサオマキザルが堅いナッツを土台に打ち付けて割る「基盤使用」を発見しました。1997年には、野生のフサオマキザルがナッツ割りをしていた痕跡が発見され、2001年には、半野生のフサオマキザルがナッツ割りを行っていることが報告されました。

フサオマキザルは、道具使用の認知研究にも利用されており、非常に複雑な道具使用行動をこなすことができます。ヴィザルベルギは、オマキザルが道具使用に長けている要因として、操作能力、認知能力、好奇心を挙げています。

野生のフサオマキザル（C. libidinosus）でも、継続的な道具使用行動が観察されています。これは、2004年にアントニーオ・デ・A・モーラとフィリス・リーの研究グループによって報告されました。また、フラゲイジーとヴィザルベルギの研究グループも、同様の行動を報告しています。

ナッツ割りの研究では、1kg以上の石を使用すること、ナッツを食べるにはこの行動が不可欠であること、二足歩行がナッツ割りの姿勢に影響していることなどが示唆されています。このことは、ヒトの直立二足歩行を考える上で重要な結果とされています。

また、セーラ・ダ・カピヴァーラ国立公園では、威嚇行動のために石を叩きつける行動も観察されています。これは、他の個体群では見られない、この個体群固有の行動と考えられています。

フサオマキザルの道具使用は、ヒトやチンパンジーなど、同じように道具を使う動物と比較することで、ヒトの道具使用の進化を再考する機会を提供します。また、チンパンジーと同様のナッツ割りは、複雑な道具使用の一例であり、認知能力の進化を考える上で重要なテーマです。

人間との関係

フサオマキザルはペットとして飼育されることもあります。また、その高い知能を生かして、介護ザルとして訓練されることもあります。ジュースを買うフサオマキザルの動画がYouTubeで紹介されたこともあります。

参考文献

Rylands, A.B., Bampi, M.I., Chiarello, A.G., da Fonseca, G.A.B., Mendes, S.L. & Marcelino, M. 2003. Cebus apella. In: IUCN 2007. 2007 IUCN Red List of Threatened Species.
Rylands, A.B., Bampi, M.I., Chiarello, A.G., da Fonseca, G.A.B., Mendes, S.L. & Marcelino, M. 2003. Cebus apella apella. In: IUCN 2007. 2007 IUCN Red List of Threatened Species.
Rylands, A. & Members of the Primate Specialist Group 2000. Cebus apella margaritae. In: IUCN 2007. 2007 IUCN Red List of Threatened Species.
CITES homepage
ワシントン条約掲載種、タクソンリスト
“第34回「大発見！[道具]]を使うサル」の取材ウラ日記”. [[日本放送協会] (2006-12-放送). 2007年3月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年5月13日閲覧。

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