フダイビーヤの和議

フダイビーヤの和議

フダイビーヤの和議（フダイビーヤのわぎ、صلح الحديبية）は、628年に預言者ムハンマドとマッカのクライシュ族との間で結ばれた休戦の協定である。この和議はマッカの郊外にある小村フダイビーヤで締結され、ここがマッカの聖域の境界を形成した。

背景と成立過程

和議に至るまでの背景には、624年のバドルの戦いでのイスラム軍の勝利、625年のウフドの戦いでのクライシュ族の勝利、さらにハンダクの戦いでの膠着状態があった。これらの戦いを経て、クライシュ族の権威は低下し、遊牧民や小オアシスの住民たちがムハンマドを支持する方向に向かっていった。

628年3月、ムハンマドは夢によって導かれ、自らの信徒1,400人から1,600人を引き連れて、マッカへの小巡礼を試みる。クライシュ族による襲撃を避けるため、入念な準備は行わず、巡礼用の動物だけを連れて出発した。その道中に武装したクライシュ族の兵士が待ち構えているとの情報が入る中、ムハンマドはフダイビーヤに移動し、交渉の場を設けた。

この交渉の結果、クライシュ族はムハンマドの巡礼を武力で妨害することで自身の権威が陥ることを恐れ、和議の締結を決断する。最初の使者としてヒラーシュ・イブン・ウマイヤが派遣されるが、彼はクライシュ族によって捕らえられ、和議の締結は困難を極めていく。

その後、ウスマーンが送られ、彼は一時監禁されるも解放され、最終的にクライシュ族のスハイル・イブン・アムルと協議を重ね、和約が成立した。和約の内容には、10年間の休戦、巡礼団の条件、マディーナとマッカの住民の送還に関する事項があった。

和約内容

和約のポイントは以下の通りである。まず、10年間の休戦が約束された。次に、巡礼団は一旦マディーナに戻り、翌年に3日間マッカが巡礼のために開放されることが定められた。また、保護者の同意なしにマディーナに移住したマッカの住民は無条件で送還され、逆にマッカへ移ったムハンマドの信徒は現地に留まることとされた。さらに、マッカ近郊の部族や個人は自由にムハンマドと同盟を結ぶことができると規定された。

この和意はクライシュ族にとって有利な条件であったため、ムスリムの中には不安や困惑も見られたが、ムハンマドはこの結果を自身の勝利と捉え、戦略眼の正しさを示すものだと考えた。

和約後の出来事

和約成立後、不満を示したムスリムの中、アブー・ジャンダルが父によって連れ戻される事件が発生する。ムハンマドはアブー・バスィールが逃げ込んできた際には、彼を和約に従って送還せざるを得なかった。しかし、この出来事が功を奏し、彼らの元に多くの信徒が集まり、クライシュ族の隊商を襲撃するようになる。

また、和議の後、ムハンマドはハイバルを攻撃し、その結果として多くのユダヤ教徒が降伏し、遊牧民も彼に改宗する。このように、この和議はイスラム教徒の連携や勢力拡大を促進し、多くの新たな信徒を得るきっかけとなった。

629年には、ムハンマドは非常に少数の兵を抱えながらカアバ神殿への巡礼を果たし、この行動によって多くのマッカの市民も影響を受け、イスラムに改宗する者が現れる。さらに、ムハンマドは自らの血縁を深めるために、様々な婚姻関係を結ぶなどし、彼の力を強めていった。

しかし、630年には遊牧民がマッカ側から攻撃を受け、関係が悪化したことを受けて、和議は破棄され、新たな戦いへと突入することとなる。フダイビーヤの和議は、イスラム教の発展において極めて重要な出来事であり、その後の歴史にも大きく影響を与えたのである。

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