フック (プログラミング)

プログラムにおけるフックとは

フックとは、ソフトウェアの特定の箇所に、ユーザーが独自の処理を挿入できるようにする仕組みのことです。この仕組みを利用することで、元のプログラムの動作を変更したり、機能を追加したりできます。フックを利用して処理を追加することを「フックする」と表現します。

フックの仕組み

フックが設定できる箇所は、プログラムの開発者が事前に決めています。一般的には、初期化処理や入出力処理の直前、直後などが対象として選ばれることが多いです。

フックは、主に以下の目的で利用されます。

機能拡張・カスタマイズ: 元のプログラムに新しい機能を追加したり、既存の機能を変更したりできます。
デバッグ: プログラムの動作を監視したり、情報を収集したりできます。

しかし、フックはプログラムの動作を変更できる強力な機能であるため、悪意のあるプログラムによって不正に利用される可能性もあります。例えば、OSのキー入力処理をフックすることで、キーロガーのような悪質なプログラムを実装できてしまうのです。

また、フックを利用すると元のプログラムコードを書き換えることなく動作を変更できるため、ROMで提供されるプログラムのバージョンアップや修正にも使われることがあります。ただし、この場合も、必要な箇所にフックが用意されていることが前提となります。そのため、プログラムを設計する段階から、将来の拡張や修正を見越してフックを組み込んでおくことが重要となります。

フックの実装例

フックの実装方法は、システムやプログラミング言語によって異なります。ここでは、代表的な3つの例を紹介します。

1. フック用アドレスが定義されている例

8ビットパソコンのような機械語レベルで制御が行われるシステムでは、フックとして呼び出しアドレスが定義されていることがあります。例えば、MSXというパソコンでは、ワークエリア内に約100個のフック用アドレスが定義されており、それぞれタイマー割り込みや入出力などに割り当てられています。フックは5バイト間隔で配置され、初期状態ではRET命令（サブルーチンからの復帰命令）が書き込まれています。ユーザーはメモリ上の別の領域に独自の処理を配置し、フック用の5バイトには独自の処理へのジャンプ命令を書き込みます。

2. 呼び出し先登録用のAPIが定義されている例

独自処理をプロシージャや関数として定義しておき、登録APIを使って登録する方法です。現代の高級言語によるプログラミングでよく見られる実装形態です。例えば、Microsoft Windowsの場合、OSが提供するフックには整数値のIDが割り振られており、登録関数`SetWindowsHookEx`が提供されています。フックIDと独自処理への関数ポインタを引数としてこの関数を呼び出すと、フック処理として登録されます。

3. フック用変数名や関数名が定義されている例

フックが変数名や関数名で定義されているシステムもあります。インタプリタ型のシステムや、コンパイラ型でも利用者が記述した処理と一緒にリンケージエディタにかかる場合（ライブラリが提供するフックのように）などに見られます。例えばテキストエディタのGNU Emacsの場合、Emacs Lispという言語でさまざまな機能が記述されていますが、多くのEmacs Lispパッケージでは、変数名の末尾が「-hook」となる変数をフックとして定義しています。GNU Emacs起動時には`emacs-startup-hook`が、c-modeを呼び出した際には`c-mode-hook`が評価されるといった具合です。LispプログラムはS式というリストで記述されており、変数にS式を設定しておけば、変数を評価する際にそのプログラムが実行されます。

フック利用時の注意点

フックは、プログラムの柔軟性を高める強力な機能ですが、利用には注意が必要です。

予期せぬ動作: フック処理のバグや、元のプログラムとの相性によっては、予期せぬ動作やエラーが発生する可能性があります。
セキュリティリスク: フックは悪意のあるプログラムによって悪用される可能性があります。特に、OSの動作に関わるフックは、注意が必要です。

フックを利用する際は、十分にテストを行い、セキュリティ対策を講じることが重要です。

まとめ

フックは、プログラムの機能を拡張したり、カスタマイズしたりするための強力なツールです。しかし、同時に悪用されるリスクも抱えています。フックの仕組みを正しく理解し、安全に利用することが大切です。

参考文献

ジェイムズ・ノーブル、チャールズ・ウィアー著、安藤慶一訳『省メモリプログラミング』（初版）ピアソン・エデュケーション、2002年6月20日（原著2001年）。ISBN 4-89471-408-6。