フユノハナワラビ

フユノハナワラビ

フユノハナワラビ Botrychium ternatum は、ハナヤスリ科に分類されるシダ植物の一種です。その名の通り、冬でも緑色の葉を保つのが特徴で、山野草として栽培されることもあります。独特の形状を持つ栄養葉と胞子葉が組み合わさった姿は、観賞価値が高いとされています。

特徴

フユノハナワラビは、冬緑性のシダ植物です。茎は直立し、葉は部分的に二形、つまり栄養葉と胞子葉が一体となっています。共通の柄から栄養葉と胞子葉が伸びる構造で、柄の長さは1.5～4.5cm程度です。

栄養葉

栄養葉は、3～4回羽状に深く切れ込み、全体としては広五角形から広三角形に近い形状です。大きさは長さ5～13cm、幅5～20cm程度で、葉質は草質からやや厚めの草質です。色は緑色で、先端は鋭く尖っています。葉脈は二叉分枝し、葉の縁に達します。側羽片は三角状広卵形から広披針形で、柄があり、先端が鈍く尖るか鋭く尖る鋸歯状になっています。

胞子葉

胞子葉は、複穂状に分枝し、長さ3～15cm、幅1.5～11cm程度です。胞子を形成する部分は柄から15～22cm程度離れており、胞子の表面は細かな網目状の模様があります。

分布と生育環境

フユノハナワラビは、日本国内では北海道から九州、種子島、小笠原諸島（南硫黄島）にかけて分布しています。国外では、朝鮮半島、中国、ベトナム、南アジアにも分布しています。山麓や原野の日当たりの良い場所に多く生育しています。

分類

ハナワラビ属は、温帯を中心に約50種が知られており、日本では13種2変種が確認されています。フユノハナワラビは、その中でもオオハナワラビ亜属に分類され、この亜属は日本に最も多くの種（9種2変種）が分布しています。ただし、種間雑種が多く、胞子を形成することもあるため、種の識別が難しいとされています。

類似種

フユノハナワラビの類似種としては、以下のものがあります。

アカハナワラビ B. nipponicum：冬に葉が赤くなる。
エゾフユノハナワラビ B. multifidum var. rubstrum：共通の柄や葉柄に毛が多い。
オオハナワラビ B. japonicum：胞子葉が胞子散布後もしばらく残る。葉先がやや尖る。
シチトウハナワラビ B. atrovirens：胞子葉が胞子散布後もしばらく残る。葉先がやや尖る。

また、変種としてアカフユノハナワラビ var. pseudoternatum があり、これはフユノハナワラビの基本変種が冬でも緑色であるのに対し、冬に赤くなることで区別されます。また、フユノハナワラビとの雑種と推定されるものもいくつか知られています。

保護の状況

環境省のレッドデータブックには掲載されていませんが、東京都と沖縄県で絶滅危惧I類、鹿児島県で準絶滅危惧に指定されています。地域によっては保護が必要な状況にあると考えられます。

利用

フユノハナワラビは、その独特な姿から山野草として栽培されることがあります。細かく裂けた葉と、黄色く色づく胞子葉の組み合わせが独特で、鑑賞価値が高いとされています。庭に群生させると美しいとの声もあります。

出典

海老原淳、『日本産シダ植物標準図鑑 I』、(2016)、株式会社学研プラス
光田重幸、『検索入門 しだの図鑑』、(1986)、保育社

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