フライング・スコッツマン

フライング・スコッツマン：イギリス鉄道史を彩る伝説の列車

ロンドンとエディンバラを結ぶ急行列車「フライング・スコッツマン」。その名は、まるで空を飛ぶかのような速さを象徴しています。本稿では、この名列車の歴史と変遷を、誕生から現代まで詳細に解説します。

誕生と黎明期

19世紀前半、ロンドンとエディンバラ間の移動手段は駅馬車が主流でした。エディンバラ行きの駅馬車は「空飛ぶ馬車」と呼ばれ、約600kmの道のりを2日間かけて走破していました。しかし、未舗装道路が多く、快適とは言えない旅でした。

1850年、グレート・ノーザン鉄道とノース・イースタン鉄道によって、ロンドンとエディンバラを結ぶ東海岸本線が開通。1862年には、この路線に「フライング・スコッツマン」と名付けられた急行列車が運行を開始しました。キングス・クロス駅から午前10時出発、約10時間半後の午後8時35分にエディンバラに到着するスケジュールでした。

当初は食堂車やトイレもなく、停車駅で乗客は一斉に食事やトイレに殺到。発車ベルに間に合わず乗り遅れる乗客もいたと言われています。3等車が連結されたのは1887年と遅く、サービス競争が激化する中で、フライング・スコッツマンは例外的な存在でした。20世紀に入ると、トイレや食堂車などの設備が充実し、快適性が向上していきました。また、各鉄道会社間の競争により、所要時間は徐々に短縮され、1888年には7時間27分を記録しました。

4大私鉄時代とノンストップ運転

1923年、イギリスの多くの鉄道会社が4大私鉄に統合され、東海岸の路線はロンドン・アンド・ノース・イースタン鉄道（LNER）となりました。LNERは、A1形蒸気機関車4472号機に「フライング・スコッツマン」の愛称を付けました。

1920年代後半、LNERはフライング・スコッツマンのロンドン―エディンバラ間ノンストップ運転を計画しました。ライバルであるロンドン・ミッドランド・アンド・スコティッシュ鉄道（LMS）の「ロイヤル・スコット」との競争、そしてLNERの威信を懸けた挑戦でした。

長距離ノンストップ運転には、機関車への給水と乗務員の交代が課題でした。給水は走行中の吸水方式、乗務員の交代は客車から運転室への通路付きの炭水車「コリドー・テンダー」を導入することで解決しました。

1928年5月1日、念願のノンストップ運転が開始。4472号機が牽引するロンドン発の列車は、カクテルバーや映写室などを備えた豪華な客車によって運行されました。ただし、ノンストップ運転は夏季限定でした。A4形機関車の導入後は、A3形は次第にフライング・スコッツマンの牽引から外れていきました。第二次世界大戦中も、フライング・スコッツマンは空襲の危険を冒して運行を続けました。

国鉄時代と民営化後

1947年の国有化後、1950年代にはディーゼル機関車の導入が進み、蒸気機関車は徐々に淘汰されました。1963年には「デルティック」と呼ばれる55形ディーゼル機関車、1978年には最高速度200km/hのHST（インターシティー125）が導入されました。1990年の東海岸本線全線電化により、インターシティー225に置き換えられました。

1994年の民営化後も、「フライング・スコッツマン」の名は受け継がれ、運行会社は幾度か変わりましたが、キングス・クロス午前10時発の伝統は維持されました。車両はインターシティー225、そして2019年からは日立製のイギリス鉄道801形または800形が使用されています。2011年には、エディンバラ発ロンドン行きの片道で4時間という最短所要時間を記録しました。

フライング・スコッツマンの遺産

「フライング・スコッツマン」は、単なる列車ではなく、イギリス鉄道史における象徴的な存在です。その歴史は、技術革新や社会変化を映し出し、人々の記憶に深く刻まれています。この列車を舞台にした映画も制作されており、日本の東武東上線には「フライング東上」という、この列車にちなんだ名称の特急列車も存在しました。今日まで続く「フライング・スコッツマン」の物語は、これからも人々を魅了し続けるでしょう。

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