フランシスコ・デ・マディナ

フランシスコ・デ・マディナ（Francisco de Madina Igarzábal）は、1907年 1月29日にスペイン北部、バスク地方のギプスコア県オニャティに生まれた作曲家であり、聖アウグスチノ修道会の聖職者でした。その生涯を通じて、彼は「アイタ・マディナ」、すなわち「マディナ神父」という敬称でも親しまれました。

マディナの若い頃は、聖職者への道を歩み始めると同時に、音楽の才能を開花させていった時期です。10代で修道会の修練院に入り、オニャティやブルゴスの地で、聖職者となるために必要な神学の研鑽と並行して、音楽の学習に励みました。特に音楽においては、当時の著名な作曲家であったアントニオ・ホセらの指導を受けたとされています。学問と芸術、精神的な探求と音楽的な表現という二つの道を、マディナは若くして歩み始めたのです。

1929年、マディナは司祭に叙階されました。その後3年間、故郷オニャティにある修道会の学校で教職に就き、若者たちの教育にあたりました。この時期の経験は、その後の海外での活動における教育者としての役割にも繋がっていきます。

転機が訪れたのは1932年です。マディナは南米アルゼンチンへと派遣されることになりました。以降、1955年までの長きにわたり、彼はブエノスアイレスとサルタという主要都市を拠点に活動しました。この期間、彼は教区の指導にあたったり、神学校の校長を務めたりするなど、聖職者として多忙な日々を送りました。しかし、それは同時に作曲家としての才能も大きく花開いた時期でもありました。アルゼンチンでの活動を通じて、彼の多くの作品がブエノスアイレスで初演され、南米の聴衆に紹介されていきました。遠く離れた新天地での生活や文化との交流は、彼の音楽にも何らかの影響を与えた可能性も考えられます。

1955年には、さらに活動の場を北米、アメリカ合衆国へと移します。新たな赴任地となったニューヨークでは、それまでアルゼンチンで行っていた聖職者としての務めを続けながら、作曲活動も継続しました。この時期になると、彼の作品はアメリカ合衆国でも初演されるようになり、国際的な評価を高めていきました。

しかし、その精力的な活動も終焉を迎える時が来ます。1971年、マディナは病のために作曲活動を断念せざるを得なくなりました。そして翌年の1972年4月、長年活動の拠点としてきたニューヨークを離れ、故郷であるスペインのオニャティへと戻ります。帰郷からわずか数ヶ月後の1972年 6月30日、彼はその生涯を閉じました。

マディナの音楽作品は、そのルーツであるバスク地方の豊かな民謡に深く根差している点が特徴です。彼の作品には、バスクの旋律やリズム、精神性が色濃く反映されており、故郷への強い愛情と結びついています。多岐にわたるジャンルを手掛け、特に合唱曲では「アヴェ・マリア」などが知られています。また、器楽曲においても重要な作品を残しており、「ハープ協奏曲」や、ユニークな編成である4台のギターとオーケストラのための「バスク協奏曲」などが代表的な例として挙げられます。これらの作品は、バスクの伝統音楽語法を現代的な形式に取り入れようとする試みを示すものであり、彼の作曲家としての重要な貢献と言えるでしょう。

フランシスコ・デ・マディナは、聖職者としての信仰に生きつつ、作曲家として故郷バスクの音楽文化を世界に紹介した人物でした。海外での長い活動期間においても、その創作の根底には常にバスクへの思いがあったことが、彼の作品から感じ取れます。彼は、教会音楽、合唱曲、器楽曲など幅広い分野で作品を残し、スペイン音楽史、特にバスク音楽史において重要な位置を占めています。

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