フランソワ・コティ

フランソワ・コティ：香水王から政治家へ、波乱の生涯

フランソワ・コティ (1874-1934) は、20世紀フランスを代表する実業家であり、香水業界の巨匠として名高い人物です。コルシカ島アジャクシオの生まれ。生粋のコルシカ人としての気質と類まれなビジネスセンス、そして政治への関与は、彼の人生をドラマチックに彩りました。

humble beginnings and rise to fame

幼くして両親を亡くしたコティは、曾祖母と祖母のもとで育ちました。兵役を経てパリへ進出し、政治家を目指していたエマニュエル・アレーヌの秘書として働き始めます。この頃、アレキサンダラン男爵の娘と結婚。パリでの生活は、彼の運命を大きく変える転機となります。薬剤師の友人から香水の知識を学び、母方の旧姓を冠したコティ社を設立。化学者レイモン・コレリーとの協力のもと、グラース産の原料を用いた香水製造に乗り出します。

1904年、最初の香水「ローズ・ジャックミノー」を発表。アール・ヌーヴォーの巨匠、ルネ・ラリックによる洗練されたボトルデザインは、当時の香水業界に革新をもたらし、たちまち人気を博します。「ジャスミン・ド・コルス」「ロリガン」など、次々と発表される香水は、コティ社をフランスを代表する香水メーカーへと成長させ、コティ自身も巨万の富を築き上げます。1908年にはシュレンヌに本社を構え、従業員数9000人を超える大企業へと発展。第一次世界大戦後にはアメリカ市場にも進出し、グローバル企業としての地位を確立しました。

from perfume magnate to media mogul and politician

香水の成功で巨万の富を手にしたコティは、その資金を元にメディア業界にも進出します。1922年、保守系大衆紙として知られる『フィガロ』を買収。第一次世界大戦後のフランス社会を席巻したナショナリズム、反共産主義、反ドイツ感情を巧みに利用した報道姿勢は、大きな影響力を持つものとなりました。

さらに、1928年には労働者向け大衆紙『人民の友』を創刊。安価な価格と右翼的な主張、そして反ユダヤ主義やファシズムを煽るような内容が、世界恐慌やスタヴィスキー事件による社会不安の中で多くの読者を得ます。様々な右翼団体への資金援助を行い、自らも上院議員選挙に出馬、当選を果たすものの、選挙違反で失格という経験もしています。1931年には故郷アジャクシオ市の市長にも就任しています。

コティの政治活動は、常に物議を醸しました。通貨安定化のための基金設立や、共和政打倒を目指す動きへの参加など、彼の政治的立場は一貫性のないものであり、他の政治家たちから疑問視されたこともありました。

turbulent personal life and legacy

華やかな成功の裏には、複雑な私生活がありました。妻イヴォンヌとの間には2人の子供がいましたが、数多くの愛人との関係を持ち、私生活は奔放そのものでした。ロンシャン城を購入するなど、莫大な資産を惜しみなく使い、その豪奢な生活ぶりは有名でした。

1929年にはイヴォンヌと離婚。多額の慰謝料の支払いを約束するものの、最終的な支払いを履行せず、裁判で敗訴。コティ社の経営権や新聞社の経営権をイヴォンヌに奪われることになります。1934年、肺炎で死去。

コティ社は、1963年にファイザーに売却され、その歴史に幕を閉じました。彼の生涯は、成功と挫折、そして奔放な生き様を体現した、20世紀フランスを代表する人物の一人と言えるでしょう。彼の香水は今もなお世界中で愛され続けており、その名声は後世に語り継がれています。

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