フランソワ・シャトレ

フランソワ・シャトレ：生涯と思想

フランソワ・シャトレ（François Châtelet, 1925年4月27日 - 1985年12月26日）は、フランスの哲学者であり、特にギリシア哲学、哲学史、そして政治思想史において重要な足跡を残しました。彼の生涯は、教育者として、また政治活動家としての側面を持ち、フランスの思想界に大きな影響を与えました。

生い立ちと教育

シャトレは、パリ郊外のブローニュ＝ビヤンクールで、プチ・ブルジョワ家庭に生まれました。父親はパリ公共交通社の職員で、路面電車の車掌でした。幼少期は文学に関心を抱き、アンドレ・ジッド、アンドレ・マルロー、カフカ、フォークナーなどの作品を読み耽りました。また、フランス革命への関心から歴史も学びました。

1943年にバカロレアを取得し、ソルボンヌ大学に入学。哲学を専攻し、大学の図書館でマルクス主義の知識人たちと交流を深めました。ガストン・バシュラールの合理的唯物論の影響を受け、マルクス主義に関心を抱くようになりました。学生時代には、アレクサンドル・コジェーヴとエリック・ヴェイユからヘーゲル哲学を学び、「ヘーゲル＝マルクス主義的実存主義者」と自称していました。

教育者として、そして政治活動へ

1948年に哲学の大学教授資格を取得後、アルジェリアの高等学校に赴任。現地の教員労働組合を結成し、書記長として軍備拡張反対、脱植民地化、反戦運動を支持しました。また、フランス語日刊紙で週刊コラムを担当し、マルクス主義の視点から社会問題を論じました。チュニジアへの転任後も、民族主義運動を支持したため、大学区長から叱責を受けるなど、政治的な活動を積極的に展開しました。

帰国後、博士論文執筆のために研究に専念し、1961年に『歴史の誕生 - ギリシアにおける歴史思想の形成』を刊行。その後、再び高等学校教員としてグランゼコール準備級で哲学を教えました。

アルジェリア戦争とスターリン批判

シャトレはフランス共産党に入党しましたが、アルジェリア戦争やスターリン批判に対する共産党の方針に反対し、「レタンセル（火花）」グループを結成。機関誌『レタンセル』で、共産党の政策を批判しました。また、アルジェリア民族解放戦線（FLN）を支援するなど、反植民地主義運動に深く関わりました。

1959年に共産党を離党。その後は政党との関わりを断ち、民族解放戦線の活動家を亡命させてかくまうなど、FLNの活動を支援しました。スターリン批判以降は、マルクスを新たな視座で捉え直す動きに共鳴し、哲学雑誌『アルギュマン』に寄稿しました。

五月革命とヴァンセンヌ大学

1968年の五月革命は、シャトレにとって大きな転機となりました。1969年に長年勤めた高等学校教員を辞任し、ヴァンセンヌ大学の創設に参加。ミシェル・フーコー、ジル・ドゥルーズらとともに哲学科を創設し、ギリシア哲学を担当しました。彼は、哲学の「教育」という観点から、講義形式だけでなくカリキュラムすら廃した哲学の「実践」を提唱しました。

1983年には、ジャック・デリダらとともに、高等教育制度から独立した開かれた哲学のための国際哲学コレージュを創設。ヴァンセンヌ大学における哲学教育・実践の反省を踏まえ、新たな哲学の試みに挑戦しました。

哲学教育への提言

シャトレは、哲学教育の批判的分析を行い、フランス教育制度における哲学の位置づけや、哲学が社会において担うべき役割を問い直す必要性を訴えました。歴史との関連で哲学の意味を捉えなおすことによって、教育の問題をより広い文化的枠組みのなかに位置づけることの重要性を説きました。また、哲学の教育は、社会における思想の自由、文化に対する「権利」につながるものでなければならないと語っています。

1974年には、監修した『哲学史』（邦題『西洋哲学の知』）に対して、アカデミー・フランセーズのボルダン賞が与えられました。

1985年12月26日、パリにて死去。享年60歳でした。

フランソワ・シャトレは、教育者、政治活動家、そして哲学者として、激動の時代を生き、フランスの思想界に多大な影響を与えました。彼の思想は、現代社会においても重要な示唆を与え続けています。

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