フランソワ・バザン

フランソワ・エマニュエル・ジョゼフ・バザン（François Emmanuel Joseph Bazin, 1816年9月4日 - 1878年7月2日）は、19世紀フランスで活躍した作曲家、そして教育者です。主にオペラ、特にオペラ＝コミックの分野で多くの作品を残しました。

生涯

バザンは地中海沿岸の都市マルセイユに生を受けました。音楽の道を志し、パリ音楽院で当時の著名な作曲家であったダニエル＝フランソワ＝エスプリ・オベールの指導のもと、作曲技法を深く学びました。音楽院での教育課程を修了した後、彼は母校に戻り、今度は教師として和声学の講義を担当するようになりました。教育者としても優れた手腕を発揮し、多くの後進を指導しました。彼の教え子の中には、後にパリ音楽院で彼の後任として和声学を教えることになるエミール・デュランや、アレクサンドル・シャルル・ルコック、アドルフ・ダンハウザー、ジョルジュ・マティアスといった、その後のフランス音楽界を担う重要な音楽家たちが名を連ねています。

作曲家としての才能は早くから認められ、1840年には23歳という若さで、カンタータ『ロワーズ・ド・モンフォール（Loyse de Monfort）』によりローマ大賞を受賞しました。これは、若手作曲家にとって最も栄誉ある登竜門でした。

作品

バザンの手掛けた作品の中でも、1865年にパリで初演されたオペラ＝コミック『中国への旅（Le Voyage en Chine）』は特に有名で、作曲者の没後も20世紀に至るまで度々上演される機会がありました。彼の作品は主に軽妙で娯楽性の高いものが多く、生前は当時の聴衆から大きな人気を博しましたが、時代の流れと共に次第に顧みられる機会が減っていきました。しかし、彼のオペラに含まれるアリアの中には、現在でも演奏会や録音で取り上げられるものがあります。例えば、テノール歌手ロベルト・アラーニャが『パトラン先生（Maître Pathelin）』の中の美しいアリア「あなたを想う（Je pense à vous）」を録音していることはよく知られています。

バザンが作曲した主要なオペラ＝コミックには以下のような作品があります。

トランペット吹きの殿下（Le Trompette de Monsieur le Prince, 1846年）
美しいことの不幸（Le malheur d'être jolie, 1847年）
聖シルヴェストルの夜（La nuit de la Saint-Sylvestre, 1849年）
マドロン（Madelon, 1852年）
パトラン先生（Maître Pathelin, 1856年）
絶望した人々（Les désespérés, 1858年）
マリアンヌ（Marianne, 未上演）
中国への旅（Le Voyage en Chine, 1865年）
* 熊とパシャ（L'ours et le pacha, 1870年）

教育活動

作曲家としてだけでなく、教育者としても重要な足跡を残しました。彼は「和声法」と「対位法」に関する教科書を執筆しました。これらの著作は、当時の権威ある和声法の手法とは異なり、音楽理論を学ぶ初心者が理解しやすいように丁寧に記述されているのが特徴です。基礎的な内容を問う練習問題が多く盛り込まれており、例えば楽譜上の音の音度を指定するといった実践的な課題が豊富に見られます。

特に『対位法』の教本は、各単元の詳細な解説に加え、実践的な理解を深めるための範例が全曲にわたって掲載されており、その内容は500ページを超える充実したものです。彼のこれらの教本は、後の音楽教育にも影響を与え、例えば音楽家アンドレ・ジェダルジュが自身の音楽理論に関する小冊子を執筆する際に参考にされたと言われています。

フランソワ・バザンは、1878年、61歳でその生涯を終えました。彼の作品の一部は現代に引き継がれ、また教育者としての功績は、フランス音楽史において重要な位置を占めています。

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