フランソワ・ヴィドック

ウジェーヌ=フランソワ・ヴィドック（1775年7月23日 - 1857年5月11日）は、フランスが生んだ特異な人物です。犯罪者として生を受けた彼は、後にパリ警察の密偵となり、ついには国家警察パリ地区犯罪捜査局を創設、初代局長に就任しました。そして、その経歴は世界初の探偵という肩書へと繋がります。

アラスで生まれたヴィドックは、回想録によればロベスピエール家の隣に家を構えていたと言います。15歳までは不自由なく育ち、16歳で歩兵連隊に入隊しますが、軍隊生活に馴染めず5年で除隊。しかし、除隊証明書を受け取らなかったために脱走兵として逮捕され、入獄してしまいます。入獄中には贋造紙幣犯の一味という濡れ衣を着せられ、ブレストの徒刑場で重労働を強いられることになりました。

その後10年間、ヴィドックは脱獄と逮捕を繰り返し、その過程で多くの重罪犯人と知り合います。暗黒社会の裏表、犯罪の手口を詳細に知り尽くし、脱獄と変装のプロフェッショナルへと成長しました。出獄後、彼はパリ警察の手先として、徒刑場で得た情報を売る密偵となります。その才能を発揮し、数々の功績を挙げた彼は、ついには国家警察パリ地区犯罪捜査局を創設し、初代局長に就任するのです。このヴィドックの捜査局は、後のパリ警視庁の前身となりました。

密告とスパイを常套手段とし、犯罪すれすれの摘発方法を用いることもありましたが、その手腕は目覚ましいものでした。また、彼は入手した犯罪者と犯罪手口を分類し、膨大なカードを作成して各地の警察に配備するという、科学的な捜査方法を確立しました。その後、捜査局を辞した彼は個人事務所を開設し、世界初の探偵となります。その利用者は3000人に及んだと記録されています。

ヴィドックの著書『ヴィドック回想録』（1827年）は、彼の数奇な半生と異常な犯罪記録を赤裸々に綴ったもので、エドガー・アラン・ポー、エミール・ガボリオ、アーサー・コナン・ドイルといった探偵小説の創始者たちに大きな影響を与えました。オノレ・ド・バルザックの『ゴリオ爺さん』に登場するヴォートランは、明らかにヴィドックをモデルにしており、ヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』のジャン・ヴァルジャンとジャヴェールも彼から着想を得たと言われています。

ヴィドックは、映画『ヴィドック』、漫画『ノブナガン』、ゲーム『アサシン クリード ユニティ』など、様々な作品に登場し、その波瀾万丈な人生は、現在も多くの人々を魅了し続けています。

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