フランチェスコ・デッレ・オペレの肖像

ピエトロ・ペルジーノ『フランチェスコ・デッレ・オペレの肖像』

盛期ルネサンスを代表する画家ピエトロ・ペルジーノが1494年に制作した油彩の肖像画が『フランチェスコ・デッレ・オペレの肖像』です。この作品は、フィレンツェの職人フランチェスコ・ディ・ロレンツォ・ディ・ピエロ・デッレ・オペレを描いたもので、その保存状態の良さから、当時の絵画技法や芸術的感性を今に伝える貴重な作品として知られています。現在はフィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されており、多くの人々を魅了し続けています。

モデルとなった人物

フランチェスコ・ディ・オペレは、1450年頃に宝石の彫刻や織物を手掛ける職人の家庭に生まれました。彼の姓「オペレ」は「作品」を意味し、その職業に由来しています。宝石彫刻家ジョヴァンニ・デッレ・コルニオーレとは兄弟関係にあり、後にヴェネツィアへ移住しました。この肖像画が描かれた2年後の1496年に亡くなっています。

作品の特徴

ペルジーノは、フランチェスコ・デッレ・オペレを四分の三正面を向いた胸像として描いています。黒いケープを羽織り、その下には赤い衣装と白いシャツを着ています。頭にはケープと同じ色の帽子を被り、落ち着いた印象を与えます。彼は欄干の向こう側に座り、両手を欄干の上に置いています。右手に握られた紙片には、ラテン語で「神を敬え」を意味する「TIMETE DEUM」という言葉が記されています。この言葉は『新約聖書』の「ヨハネの黙示録」に登場し、当時フィレンツェで影響力を持っていたドミニコ会修道士ジローラモ・サヴォナローラの説教のテーマでもありました。

背景には、岩山やなだらかな丘陵、湖の風景が広がっています。遠景には、空気遠近法を用いた青みがかった色調が用いられ、ウンブリア派の特徴である細い木々が点在しています。画面右側には、高く尖った塔を備えた都市が描かれており、この風景描写は絵画に奥行きと広がりを与えています。

この作品は、初期フランドル派の巨匠ハンス・メムリンクの肖像画からの影響が指摘されています。特に、四分の三正面の胸像、欄干と手のモチーフ、背後の風景、構図のバランスなどは、メムリンクの作品に通じる要素です。ペルジーノは、左腕全体を描き、衣服のひだを重ねることで、奥行きのある表現を追求しました。

ペルジーノがこの肖像画を、フランチェスコが移住したヴェネツィアで制作した可能性も指摘されています。

作品の来歴

この肖像画は、17世紀の枢機卿レオポルド・デ・メディチの目録に初めて登場します。当初は「ラファエロ・サンツィオの第二の様式」の作品として記録されていました。その後、19世紀にはペルジーノやヤーコポ・フランチャの作品と見なされていましたが、アントニオ・ラミレス・デ・モンタルボが板絵の裏側の碑文を解読したことで、ペルジーノの作品であることが確定しました。

長い間、この肖像画はペルジーノの自画像であると考えられていました。1883年にウフィツィ美術館に収蔵された後も、ヴァザーリの回廊で画家の自画像として飾られていました。しかし、ガエターノ・ミラネージが裏側の碑文を研究した結果、フランチェスコ・ディ・オペレの肖像画であることが明らかになりました。この作品は1977年に修復を受けています。

後世への影響

フランドル絵画の影響を受けつつ制作されたこの肖像画は、若いラファエロ・サンツィオに大きな影響を与えました。ラファエロは、この作品を通してフランドルの肖像画の要素を間接的に参照し、ブダペスト国立西洋美術館に所蔵されている『若い男の肖像』を制作しました。しかし、ペルジーノの奥行きを強調する手法は採用していません。

まとめ

『フランチェスコ・デッレ・オペレの肖像』は、ペルジーノの卓越した技術と、ルネサンス期における肖像画の発展を物語る重要な作品です。モデルの人物像だけでなく、当時の社会背景や芸術動向も反映しており、美術史における貴重な資料となっています。この作品を通して、ペルジーノの芸術性だけでなく、ルネサンス期の文化や価値観にも触れることができるでしょう。

参考文献

『西洋絵画作品名辞典』黒江光彦監修、三省堂（1994年）
『Raffaello ラファエロ』渡辺晋輔責任編集ほか、読売新聞東京本社（2013年）

外部リンク

ウフィツィ美術館公式サイト, ペルジーノとして知られるピエトロ・ヴァンヌッチ『フランチェスコ・デッレ・オペレの肖像』

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