フランツ・シュタングル

フランツ・パウル・シュタングル：ナチス絶滅収容所所長とその生涯

フランツ・パウル・シュタングル（1908年-1971年）は、ナチス・ドイツの親衛隊将校であり、ソビボルとトレブリンカという二つの絶滅収容所の所長として、数多くのユダヤ人虐殺に関与した人物として知られています。オーストリア出身の彼は、警察官としての経歴を経てナチス党に加わり、その後の暗黒の道を歩むこととなります。

経歴：警察官から絶滅収容所所長へ

シュタングルはオーストリアのアルトミュンスターで生まれました。父親との関係は良好ではなく、幼少期は不安定な環境で過ごしたと言われています。若い頃は織工として働いていましたが、1931年にオーストリア警察に転職。その後、ナチス党員となり、オーストリア併合後は警察内の地位を急速に高めていきます。

1940年には、T4作戦（ナチスによる障害者や精神病患者の安楽死計画）に関与。ハルトハイム殺害精神病院で責任者として働き、大量殺戮の実行に加担しました。この経験は、彼を後の絶滅収容所での行為へと繋がる重要な転換点であったと言えるでしょう。

1942年、シュタングルはポーランドに転勤し、オディロ・グロボクニクの下で働きます。同年3月から9月にかけてはソビボル絶滅収容所の所長を務め、推定10万人のユダヤ人を殺害したとされています。その後、トレブリンカ絶滅収容所の所長に就任。ここでも大量虐殺に加担し、その残虐性はさらに増していきました。シュタングル自身、トレブリンカでの勤務中に、殺人に慣れてしまい、ユダヤ人たちを「手荷物」として見るようになったと証言しています。

戦後の逃亡と逮捕

第二次世界大戦後、シュタングルは巧妙に身分を隠して逃亡生活を送ります。アメリカ軍の捕虜となった後も、ソビブル時代の同僚と共にイタリアへ逃亡。バチカン当局の協力も得て、シリア、ブラジルへと逃亡を続けました。ブラジルではフォルクスワーゲン工場で働き、偽名を使わずに生活していました。

しかし、ナチハンターのサイモン・ヴィーゼンタールによって行方が突き止められ、1961年に逮捕令状が出されます。ブラジルで逮捕されたシュタングルは、1967年に西ドイツに身柄を引き渡され、裁判にかけられました。彼はおよそ90万人の殺害を認めながらも、「自分の義務を果たしただけ」と主張しました。

裁判と死

1970年12月22日、シュタングルは終身刑の判決を受けます。すでに死刑が廃止されていた西ドイツにおいて、これは最高刑でした。彼は1971年6月28日、デュセルドルフ刑務所内で心臓麻痺で死亡しました。獄中では、イギリス人ジャーナリストのギッタ・セレニーのインタビューにも応じており、その記録は『人間の暗闇』として出版されています。

シュタングルが残した意味

シュタングルの生涯は、ナチス政権下の大量虐殺の恐ろしさを改めて示すだけでなく、加害者の責任を問う重大さを浮き彫りにするものです。彼の証言や裁判記録は、ホロコースト研究において重要な資料として活用され、未来への教訓となっています。彼の逃亡劇は、戦後におけるナチスの協力者や逃亡者の存在を明らかにし、歴史の闇を解き明かすための重要な手がかりにもなりました。 シュタングルの存在は、私たちに歴史を学び、二度とこのような悲劇を繰り返さないよう、常に警鐘を鳴らし続けています。

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