フリッツ・シューマッハー

フリッツ・シューマッハー（Fritz Schumacher, 1869年 - 1947年）は、20世紀前半のドイツにおいて、建築家、都市プランナー、そして理論家として多岐にわたる活動を展開した重要な人物です。特に北ドイツにおけるユーゲント・シュティールや表現主義建築の発展に寄与し、その代表的人物の一人に数えられています。

彼のキャリアにおいて特筆すべきは、長期間にわたりハンブルク市の建築課長および都市プランナーを務めたことです。この立場で、彼はハンブルクの都市計画行政を主導し、同時に数多くの公共建築や都市空間の設計を手がけました。その功績は大きく、後世にはその名を冠した「フリッツ・シューマッハ賞」が創設されるほどです。

シューマッハーは、実践的な建築・都市計画に加えて、理論家としても重要な足跡を残しています。彼の主要な著書としては、1938年に刊行された建築美学に関する論考『Der Geist der Baukunst（建築の精神）』や、1945年に出版された建築史に関する著作『Stromungen in deutscher Baukunst seit 1800（1800年以後のドイツ建築の流れ）』があります。これらの著作を通じて、彼は自らの建築思想や歴史観を広く示しました。

彼の活動は、当時のドイツにおける建築・デザイン運動とも深く関わっていました。1907年、彼がドレスデン工科大学の空間芸術教授を務めていた時期に、近代デザイン運動の重要な組織であるドイツ工作連盟（Deutscher Werkbund, DWBまたはヴェルクブント）がミュンヘンで設立されました。シューマッハーは、ヘルマン・ムテジウス、ペーター・ベーレンス、アンリ・ヴァン・ド・ヴェルド、オルブリヒ、リーマーシュミットといった高名な建築家や工芸家、さらには複数の企業や団体と共に、その設立連名者の一人として名を連ねています。

建築家としての代表的な作品には、ハンブルクにおけるものが多くあります。1912年から1920年にかけて設計したハンブルク歴史博物館は、同市の歴史を収蔵する重要な施設となるはずでしたが、残念ながら第二次世界大戦中の1922年（原文ママ）に連合軍による爆撃を受け破壊されました。

また、1925年には、イコノロジーという概念を提唱したことで知られる銀行家・資産家のアビ・ヴァールブルクが創設した文化科学図書館、通称ヴァールブルク文庫の設計を、ゲルハルト・ラングマークらと共同で行っています。ヴァールブルクが自身の借財と私財を投じて設立したこの図書館は、特に楕円形のホールや閲覧室が特徴的な空間を持ち、玄関には記憶の女神ムネモシュネの名が刻まれていました。

都市プランナーとしてのシューマッハーの功績は、ハンブルク市内に数多くの緑豊かな公園や広場を整備したことにも表れています。これらの整備により、彼は市民が自然と触れ合える快適な都市環境を創出しました。主要な大規模公園として、オールスドルフ墓地、プランテン・ウンブローメン、ハンブルク市立公園などが挙げられます。これらの緑地帯は、広大な芝生や樹木が広がり、市民の散策や憩いの場となっています。特にプランテン・ウンブローメンは、ヨーロッパ最大のプラネタリウムを含む複合施設エリアとしても知られています。シューマッハー自身も、20世紀初頭にはこれらの公園周辺に位置する建物の設計を手がけています。

国際的な関わりとしては、1924年に日本の関東大震災が発生した後、その復興計画についても論評を寄せたことが記録されています。

フリッツ・シューマッハーは、建築設計、都市計画、理論活動、そして近代デザイン運動への関与といった多角的な視点から、20世紀初頭のドイツ建築および都市形成に大きな影響を与えた人物と言えるでしょう。

もう一度検索