フリードリヒ・キール

フリードリヒ・キール（Friedrich Kiel, 1821年10月8日生 - 1885年9月13日没）は、19世紀ドイツで活躍した作曲家、そして音楽教師でした。彼はロベルト・シューマンやヨハネス・ブラームスと同世代に属し、とりわけ多岐にわたる器楽曲、中でも質の高い室内楽作品を数多く世に送り出したことで後世に名を残しています。

キールはプダーバッハで生まれました。父親であるヨハン・ヨスト・キールから音楽の初歩とピアノの手ほどきを受けましたが、彼が音楽家としての道を切り開く上で、正規の教育はほとんど受けず、自己研鑽に頼るところが大きかったと言えます。幼少期から非凡な才能を示し、6歳にして独学でピアノを演奏し、13歳になるまでには既に多くの楽曲を作曲していました。その才能は、熱心な音楽愛好家であったザイン＝ヴィトゲンシュタイン＝ベルレブルク侯爵アルプレヒト1世の目に留まります。侯爵の援助を得て、キールは侯爵の宮廷楽団でヴァイオリンのコンサートマスターを務める傍ら、著名なフルート奏者カスパー・クンマーから音楽理論を学びました。18歳を迎える頃には、ベルレブルクの楽長、そして侯爵の子弟たちの音楽教師に任命されるまでになります。

1842年、作曲家ルイ・シュポーアの尽力により、キールはプロイセン王ヴィルヘルム4世からの奨学金を得てベルリンへと移り住みます。そこで彼は1844年まで、高名な音楽理論家ジークフリート・デーンに師事し、深い音楽理論の知識を習得しました。ベルリンでの生活が始まると、彼は演奏家としても高い評価を得て、多くの演奏機会に恵まれるようになります。そして1866年には、名門として知られるシュテルン音楽院にピアノ講師として迎え入れられます。間もなく作曲の指導も担当するようになり、その手腕を認められ、3年後には教授へと昇進しました。

1870年からは、新設されたベルリン高等音楽学校に移籍し、ヨーゼフ・ヨアヒム、エルンスト・ルドルフ、アドルフ・シュルツェ、フィリップ・シュピッタといった著名な音楽家たちと同僚として教壇に立ちました。キールは教育者としても多くの有能な音楽家を育てたことでも知られています。彼の主な教え子の中には、ジグムント・ノスコフスキ、アーサー・ソマヴェル、チャールズ・ヴィリアーズ・スタンフォード、フレデリック・カウエン、エミール・シェーグレンといった面々がいます。

作曲家としては、キールは交響曲と歌劇を除く、ほとんどすべての楽種にわたって作品を創作しました。彼自身の演奏や指導の経験から、全作品の約半分はピアノ曲が占めています。その他にも、様々な編成のための室内楽曲、ピアノ協奏曲、合唱曲、そしてレクィエムや荘厳ミサ、オラトリオ『ベツレヘムの星』といった宗教曲があります。

キールの作品の中でも、室内楽曲は特に重要な位置を占め、彼の芸術性の真骨頂を示すものとして高く評価されています。音楽学者・音楽評論家のヴィルヘルム・アルトマンは、キールの作風がやや穏当であったことが、当時の正当な評価を妨げた可能性を示唆しつつも、ブラームスなどの名前を挙げた上で、「キールは数多くの室内楽曲を残しており、それらはどれも傑出している」と称賛しています。現代では、1993年よりフリードリーヒ・キール協会がケルンのドーア社と共同で、キールの作品の校訂譜出版を進めており、彼の作品の再評価が進められています。

キールは趣味として登山を愛好しており、スイスとイタリアの国境に位置するモンテ・ローザにも登頂しています。彼は登山中の交通事故に巻き込まれ、突然この世を去りました。

フリードリヒ・キールは、優れた作曲家であると同時に、ベルリンの主要な音楽教育機関で多くの後進を指導した偉大な教育者でもありました。その作品、特に室内楽は、今なお多くの演奏家によって演奏され、聴衆を魅了し続けています。

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