フリードリヒ・ゲルンスハイム

フリードリヒ・ゲルンスハイム（Friedrich Gernsheim, 1839年 7月17日 - 1916年 9月10日）は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍したドイツの作曲家、ピアニスト、そして指揮者です。ヨハネス・ブラームスなど同時代の巨匠たちの陰に隠れる形で、その作品は長らく忘れ去られていましたが、近年、世界的に再評価の動きが進んでおり、録音や演奏機会の増加によって再び注目を集めています。

生涯

1839年 7月17日、ライン川沿いの都市ヴォルムスで、同化ユダヤ人の家庭に生まれました。父は医師でした。フランスによる支配下でユダヤ人が解放された時代背景のもと、ゲルンスハイムは比較的恵まれた環境で育ちました。

幼い頃から音楽の才能を示し、7歳の時には地元の音楽監督であったルイ・リーベ（ルイ・シュポーアの弟子）に音楽の基礎を学びます。

1848年の革命の混乱がドイツ各地に波及する中、ゲルンスハイム一家は安全を求めてまずマインツへ、そしてライプツィヒへと移り住みました。ライプツィヒでは1852年から、高名なピアニスト・作曲家であるイグナーツ・モシェレスの指導のもと、ピアノの研鑽を積みました。

さらなる研鑽のため、1855年から5年間にわたりパリに留学します。当時のパリはヨーロッパの芸術の中心地であり、ゲルンスハイムはここでジョアキーノ・ロッシーニ、エドゥアール・ラロ、カミーユ・サン＝サーンスといった、時代を代表する作曲家たちと交流を持つ機会に恵まれました。このパリでの経験は、彼の音楽的視野を広げ、その後の作曲活動に大きな影響を与えたと考えられます。

帰国後、ゲルンスハイムは指揮者としてのキャリアを開始します。1861年には、後にワーグナー作品の指揮で知られるヘルマン・レーヴィが去った後のザールブリュッケンの音楽監督に就任しました。そして1865年にはケルン音楽院に招聘され、教鞭をとる傍ら、ケルン音楽協会、国立合唱協会、歌手団といった地域の主要な音楽団体の音楽監督も兼務するなど、多忙な日々を送りました。1873年には、ケルン国立歌劇場管弦楽団の指揮者という重要な地位も任されることになります。

1874年、活躍の場をオランダに移し、ロッテルダムのフィルハーモニー協会の音楽監督に就任。この職を1890年まで16年間にわたり務め、その間にロッテルダムの音楽水準向上に貢献しました。

1890年以降は、ドイツの首都ベルリンに活動拠点を移します。ベルリンではシュテルン音楽院で教え、また同音楽院付属の合唱協会の指揮者を務めました。晩年のゲルンスハイムはドイツ音楽界の重鎮として認められるようになり、1897年には王立ベルリン芸術アカデミーの会員に選出され、1901年には作曲家アカデミー高等学院の院長を務めるなど、栄誉ある地位を歴任しました。1916年 9月10日、ベルリンにてその生涯を閉じました。

作品

ゲルンスハイムは非常に多作な作曲家であり、管弦楽曲、協奏曲、室内楽曲、ピアノ曲、合唱曲など、様々なジャンルにわたる作品を残しています。彼の音楽スタイルは、シューマンや特にブラームスに近い、ドイツ・ロマン派音楽の伝統に根ざしたものです。旋律美と確かな構成力、そして情感豊かな表現が特徴と言えます。

近年の再評価の波に乗って、彼の作品、特に室内楽曲を中心に積極的な録音が行われています。

主要作品ジャンル

交響曲: 4曲全てが録音されています。特に第3番ハ短調《ミリアム》作品54は標題音楽的な要素を持ち、知られています。その他の交響曲は第1番ト短調作品32、第2番変ホ長調作品46、第4番変ロ長調作品62です。
協奏曲: ピアノ協奏曲ハ短調作品16、ヴァイオリン協奏曲2曲（第1番、第2番）、そしてチェロ協奏曲ホ短調作品78があります。チェロ協奏曲は2005年に復活上演が行われ、その存在が再び認識されました。
室内楽曲: 彼の作品群の中で最も録音が進んでいるジャンルの一つです。
ピアノ五重奏曲：全2曲（第1番ニ短調作品35、第2番ロ短調作品63）は全て録音されています。
弦楽五重奏曲: 全2曲。第2番変ホ長調作品89は2003年に蘇演されています。
ピアノ四重奏曲: 全3曲。第1番変ホ長調作品6と第3番ヘ長調作品47は録音されており、第2番ハ短調作品20も2003年に蘇演されています。
弦楽四重奏曲: 全5曲。第2番イ短調作品31などが録音されています。
ピアノ三重奏曲: 全2曲（第1番ヘ長調作品28、第2番変ロ長調作品37）は全て録音されています。
ヴァイオリン・ソナタ: 全4曲（第1番ハ短調作品4、第2番ハ長調作品50、第3番ヘ長調作品64、第4番ト長調作品85）は全て録音されています。
チェロ・ソナタ: 全2曲。第1番ニ短調作品12が録音されています。
その他、弦楽三重奏曲作品74なども2003年に蘇演されています。
合唱と管弦楽のための作品: 《ニーベルンゲンの帰還》作品73や《アグリッピーナ》作品77など、大規模な作品も手掛けています。

再評価の進展

ゲルンスハイムの作品は、その質の高さにもかかわらず、没後長い間、主要なレパートリーから外れていました。しかし、21世紀に入ってからの演奏家やレーベルによる積極的な取り組みにより、再びその価値が見直されています。特に、彼の交響曲全集や多くの室内楽曲の録音が実現したことは、作品へのアクセスを飛躍的に向上させました。また、かつて楽譜が入手困難であった作品の蘇演が行われるなど、演奏機会も増えています。

ブラームスと同時代を生き、時にその作風と比較されるゲルンスハイムですが、彼自身の個性と魅力に満ちた音楽は、ドイツ・ロマン派音楽の豊かな多様性を示すものとして、今後ますます研究が進み、多くの聴衆に親しまれることが期待されます。

もう一度検索