フリードリヒ・デッケル

フリードリヒ・デッケル（Friedrich Deckel AG）

1903年、ドイツ・ミュンヘンで創業した機械メーカーで、特にレンズシャッターの製造で知られています。1993年以降、数回の経営統合・合併を経て、現在はDMG森精機（ドイツ法人のDMG Mori AG）にその企業としての歴史が継承されています。

レンズシャッター

デッケル社は、カメラ用レンズシャッターの分野で特に重要な役割を果たしました。代表的な製品として、以下のシリーズが挙げられます。

コンパウンド (Compound)
1902年に発売された初期モデルで、3枚羽根のシャッター機構を持ちます。
シャッタースピードはT、B、1 - 1/200秒。
シリンダー内の空気抵抗を利用した時間制御方式で、作動音が非常に静かでした。
コンパー (Compur)
コンパウンドをベースに、調速機構をアンクル脱進機に変更したモデルです。
ローライ、イコンタ、ハッセルブラッドなど、多くの高級レンズシャッターカメラに採用され、その名を広く知らしめました。
他社製のシャッターを搭載したカメラでも「コンパータイプのシャッター」と宣伝されるほど、高級シャッターの代名詞となりました。
日本では、精工舎（現セイコーホールディングス）や甲南カメラ研究所（現コーナンメディカル）がコンパーの設計をベースにしたシャッターを製造しました。
コンパーのバリエーション
1912年発売の初期モデルでは、シャッタースピードはT、B、1 - 1/200秒。
小型の00番ではT、B、1 - 1/300秒が利用可能でした。
当初はダイヤル式でシャッタースピードを設定していましたが、1928年にリム式に変更。
ダイヤル式のモデルは「ダイヤルセットコンパー」、リム式のモデルは「リムセットコンパー」と俗称されました。
1929年にはシャッターの最高速度が1/250秒に向上し、セルフタイマーが内蔵された「新コンパー」が登場しました。
コンパーラピッド (Compur Rapid)
1935年発売。00番ではT、B、1 - 1/500秒、0番ではT、B、1 - 1/400秒のシャッタースピードをサポート。
シンクロコンパー (Synchro Compur)
1951年発売。MX接点を内蔵し、フラッシュ同調機能を備えました。

コンパー使用時の注意事項

古い製品では、TをZ (Zeit)、BをD (Dauer)、I (Instant) をM (Moment) と表記している場合があります。
セルフコッキングでないコンパーでは、シャッターダイヤルがBまたはTの状態ではシャッターセットレバーを動かさないでください。セットせずにレリーズ操作を行うと動作します。
新コンパーS、コンパーラピッド、シンクロコンパーなどにはセルフタイマーが装備されています。シャッターセット後にセルフタイマーノブを操作することでセルフタイマーがチャージされます。ただし、1/400秒や1/500秒ではセルフタイマーが効かない場合があります。

デッケルマウント

デッケル社は、異なるカメラメーカー間でレンズを共有するための交換レンズマウント、いわゆるデッケルマウントを開発しました。

実際には、シャッター、レンズ周りの機構を統合したユニットであり、単なるマウントではありませんでした。
脱着はバヨネット式を採用し、シンクロ・コンパー#00-MXV-Wideシャッターを内蔵。
シャッター開口径は21.8mm、フランジバックは47.5mmです。
一眼レフカメラ向けには自動絞り機構が搭載され、レンジファインダーカメラ向けには距離情報伝達のためのカムがレンズ側に組み込まれました。
シャッターユニットには読み取りピンが通されており、レンズとカメラ本体の間で情報を伝達していました。
レンジファインダーカメラと一眼レフカメラの両方を製造していたメーカーでは、両方の機構を搭載したレンズを共通で利用できました。
シャッター側には絞りが内蔵されていませんが、ライトバリュー式制御を採用しており、シャッター速度と絞り値が連動して制御されます。
絞りと直進ヘリコイドを内蔵したレンズ側マウントも同時に供給されましたが、機械的光学的な制約からレンズメーカーに対するカスタマイズの自由度は低く、特に長焦点レンズにおいては最短撮影距離が長くなるという問題がありました。

例: 135mmレンズの最短撮影距離は4m、350mmレンズでは28mにもなりました。

デッケルマウントを採用した主なメーカーと製品：

ドイツ・コダック - レチナレフレックスシリーズ、レチナIIS、レチナIIIS
フォクトレンダー - ヴィテッサT、ベッサマチック/ウルトラマチックシリーズ
バルダ - バルダマチック
イロカ
カール・プーヴァ

しかし、各社が自社識別用の爪を追加したため、互換性が失われ、共通マウントとしての利便性は損なわれました。フォクトレンダーやシュナイダー・クロイツナッハ、ローデンストックなどのレンズメーカーがレンズを供給していましたが、互換性の問題からユーザーが識別爪を削って利用を試みるケースも見られました。

参考文献

『クラシックカメラ専科』No.2「名機105の使い方」朝日ソノラマ

関連項目

DMG森精機：デッケル社の事業を継承する企業。DMGの「D」は「Deckel」の頭文字です。
レンズマウント#レンジファインダーカメラと一眼レフカメラで共用のマウント：デッケルマウントに関連する情報について参照。

外部リンク

Deckel FP1 Universal Precision Milling Machine

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