フリードリヒ5世 (ヘッセン＝ホンブルク方伯)

フリードリヒ5世：啓蒙と保守の間で生きたヘッセン＝ホンブルク方伯

フリードリヒ5世（1748年1月30日 - 1820年1月20日）は、ヘッセン＝ホンブルク方伯として、激動の時代を生きました。彼は、ヨーロッパの旧体制下で生まれ、啓蒙時代、フランス革命、神聖ローマ帝国の崩壊、ナポレオン1世の興亡、ウィーン会議といった歴史的転換点を目の当たりにし、ヨーロッパとドイツの地政学的秩序の変遷を見届けました。しかし、歴代の方伯や後継者とは異なり、軍事的な野心よりも、ドイツ精神史の擁護者としての役割を重視し、文化人との交流を深めました。

生涯

摂政時代と継承

フリードリヒ5世は、ヘッセン＝ホンブルク方伯フリードリヒ4世と、ゾルムス＝ブラウンフェルス侯フリードリヒ・ヴィルヘルムの娘ウルリーケ・ルイーゼの間に生まれました。父の死後、幼少のため母ウルリーケが摂政を務めましたが、ヘッセン＝ダルムシュタット方伯ルートヴィヒ8世の介入により、その地位は脅かされました。しかし、神聖ローマ皇帝フランツ1世の支持を得て、ウルリーケは摂政の座を守り抜きました。1766年、フリードリヒ5世は親政を開始し、ヘッセン＝ダルムシュタットとの論争に終止符を打つため、ヘッセン＝ホンブルクに対するすべての権利を放棄させる条約を締結しました。

1768年には、プファルツ＝ツヴァイブリュッケン家のカロリーネと政略結婚しましたが、夫婦仲は良好とは言えませんでした。晩年、フリードリヒ5世は回想録で愛を知らないと述懐しており、その事実は、彼の不在がちだった生活や、当時の貴族の手紙からも裏付けられています。

教育

若き日のフリードリヒ5世は、敬虔なカルヴァン主義者であり、人道主義者でもあったアレクサンダー・フォン・ジンクライルから教育を受けました。ジンクライルは、後の外交官イザーク・フォン・ジンクライルの父であり、フリードリヒ5世に対し、厳格な教育を施しました。ジンクライルの教育は、敬虔さと自己認識が救いへの道であるという、フリードリヒ5世の信念の基礎を築きました。

吃音症のため、人前で話すことに苦労しましたが、ジンクライルは哲学、数学、建築、チェス、ピアノなど、幅広い分野の知識を授けました。軍隊経験はありませんでしたが、国の財政を誠実に管理し、アムステルダムやフランクフルトの銀行家からの融資に頼りながらも、財政再建に尽力しました。

芸術とフリーメイソン

フリードリヒ5世の宮廷は、学者、詩人、音楽家が集う場所でした。ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテもホンブルクに滞在し、バート・ホンブルク城の白い塔を題材にした詩を残しています。フリードリヒ5世は、図書館と領内の学校制度の充実に力を注ぎました。妃カロリーネがフランスの作品を好んだのに対し、フリードリヒ5世は哲学、歴史、軍事科学、神学に関する書籍を収集しました。旅行記も好み、紀行作家としても活動しました。

フリードリヒ5世は敬虔な人物でしたが、啓蒙主義の思想を広めるための「ソシエテ・パトリオティーク・ド・エッセ＝オンブルグ」を支援しました。1782年には、フリーメイソンとして認められ、ゲーテやクロプシュトックといった同胞と交流を深めました。1802年には、旧友ヘルダーリンを宮廷司書として迎えましたが、ヘルダーリンに与えられた仕事は多くありませんでした。

占領と復帰

フランス革命軍がライン・マイン地域に侵攻すると、ホンブルクは軍事占領下に置かれ、フランスへの拠出金を強いられました。1798年には、ローラン・グーヴィオン＝サン＝シール将軍とミシェル・ネイ将軍がバート・ホンブルク城に本部を移し、フリードリヒ5世一家はプロイセンへ避難しました。1806年、ヘッセン＝ホンブルクはヘッセン＝ダルムシュタットに併合され、フリードリヒ5世はテンペ庭園の造園や、シュランゲンバートの温泉療養に時間を費やしました。

ナポレオン失脚後、ヘッセン＝ホンブルクは独立を回復し、ライン川西岸のマイゼンハイム大管区を与えられました。1817年にはドイツ連邦に加盟し、主権国家としての地位を確立しました。1819年、軍隊での兵役に対する剣十字勲章を制定し、翌年、バート・ホンブルク城で生涯を閉じました。

子女

カロリーネとの間には15人の子供が生まれ、そのうち11人が成人しました。長男のフリードリヒ6世は、ヘッセン＝ホンブルク方伯を継承しました。

フリードリヒ5世は、激動の時代を生きながらも、芸術と教育を愛し、領民を大切にした君主でした。彼の生涯は、啓蒙思想と保守的な価値観が交錯する時代の縮図と言えるでしょう。

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