フリー・シネマ

フリー・シネマとは

フリー・シネマ（Free Cinema）は、1950年代のイギリスで起こったドキュメンタリー映画運動です。1956年2月5日に始まり、1959年まで続きました。リンゼイ・アンダーソン、カレル・ライス、トニー・リチャードソン、ロレンツァ・マッツェッティの4名が中心となり、ロンドンの国立映画劇場（現在のBFIサウスバンク）で、彼らの短編映画を集めたプログラムを上映したことがきっかけで始まりました。

このプログラムは大きな反響を呼び、その後も5つのプログラムが「フリー・シネマ」の名のもとに上映されました。彼らは、自分たちの作品が既存の映画産業の枠にとらわれない、自由な映画製作のあり方を追求したいという思いから、この運動をスタートさせました。

フリー・シネマの初期作品

最初のプログラムでは、以下の3つの短編映画が上映されました。

リンゼイ・アンダーソン監督の『オー・ドリームランド』：ケント州マーゲイトの遊園地を舞台にした作品です。
カレル・ライスとトニー・リチャードソン共同監督の『Momma Don't Allow』：ノース・ロンドンのジャズクラブを描いた作品です。
ロレンツァ・マッツェッティ監督の『Together』：ロンドンのイーストエンドで暮らす聾唖者の兄弟を描いたドキュメンタリー風のフィクション作品です。

これらの作品には、アンダーソンが中心となって作成した映画マニフェストが添付されており、映画作家たちのメッセージを明確に示しました。

運動の拡大

その後、アラン・タネールとクロード・ゴレッタ（『ピカデリーの夜』）、マイケル・グリグズビー、ロバート・ヴァスといった映画作家が運動に合流しました。また、ウォルター・ラサリーとジョン・フレッチャーという2人の映画技術者も深く関わっています。上映された6つのプログラムのうち3つは、フランスのヌーヴェルヴァーグやポーランド派など、海外の作品に焦点を当てたものでした。

フリー・シネマの特徴

フリー・シネマの作品は、既存の映画産業の枠外で製作されている点、そのスタイルと態度、製作条件において「自由」であるという点で特徴づけられます。作品は、200～300ポンドという非常に低い予算で制作され、多くは英国映画協会の実験映画ファンドからの助成金を利用しました。後期には、フォード・モーター社からの資金提供を受けた作品もあります。

技術的には、16ミリフィルムの白黒映像で、手持ちカメラが多用されました。音声は別録りで、ナレーションは意図的に省略されることが多かったようです。題材としては、労働者階級の日常生活に焦点を当て、彼らの視点から社会を捉えようとした点が特徴です。これは、中産階級が支配的だった当時の映画業界に対する、彼らの強い反発を示しています。

他の映画運動との比較

フリー・シネマの創始者たちは、ジョン・グリアソンが中心となった1930年代から40年代のイギリスのドキュメンタリー映画の主流を軽蔑していました。ただし、ハンフリー・ジェニングスの作品は高く評価していました。また、フランスの映画監督ジャン・ヴィゴからの影響も受けています。フリー・シネマは、シネマ・ヴェリテやダイレクト・シネマといった他の映画運動と共通点も持ちながら、多くの点で異なっています。

ブリティッシュ・ニュー・ウェイヴへの影響

フリー・シネマ運動は、1950年代後半から1960年代初頭のブリティッシュ・ニュー・ウェイヴ運動に大きな影響を与えました。マッツェッティを除く創始者たちは、この運動と密接に関わり、『土曜の夜と日曜の朝』(1960)、『蜜の味』(1961)、『長距離ランナーの孤独』(1962)、『孤独の報酬』(1963)といった重要な作品を生み出しました。

フリー・シネマの関連事項

ブリティッシュ・ニュー・ウェイヴ
ダイレクト・シネマ
シネマ・ヴェリテ
フィルム・マニフェスト
リンゼイ・アンダーソン
カレル・ライス
トニー・リチャードソン
ロレンツァ・マッツェッティ
マイケル・グリグズビー
ロバート・ヴァス
ジョン・グリアソン

外部リンク

Screenonline Free Cinema - BFI 英語
Interactive video talk by Malcolm McDowell on Free Cinema, made for BFI Screenonline 英国映画協会の映像記事

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