フロム・ザ・クレイドル

エリック・クラプトン『フロム・ザ・クレイドル』：ブルースへの回帰と敬意

1994年、世界の音楽ファンはエリック・クラプトンから、彼が自身の音楽的根源であるブルースに深く向き合ったアルバム『フロム・ザ・クレイドル』を届けられました。これは、ブルースの古典を彼自身の解釈で蘇らせた、全編ブルースのカバー集です。前年に発表され大成功を収めたアコースティックライブ盤『アンプラグド』に続く形で制作された本作は、彼のキャリアにおける一つの節目、そして自身の音楽的ルーツへの「原点回帰」という強い意志のもとに生み出されました。この作品は商業的にも成功を収め、特に第37回グラミー賞では「ベスト・トラディショナル・ブルース・アルバム」を受賞するなど、その音楽的価値が高く評価されました。

生々しいサウンドへのこだわり

『フロム・ザ・クレイドル』のサウンドを決定づけているのは、その独特なレコーディング手法です。収録曲の大部分は、スタジオでのセッションをライブのように一発録りする形式で収録されました。これは、演奏者たちの息遣いや瞬間のインスピレーションをそのまま捉え、ブルースが本来持つ即興性や生々しさをアルバムに吹き込むための選択でした。洗練されたオーヴァーダブは極力避けられ、「ハウ・ロング・ブルース」と「マザーレス・チャイルド」のわずか2曲に最小限施されたのみです。このダイレクトなアプローチが、アルバム全体に漲るパワフルで血の通ったサウンドの核となっています。

ブルースの偉人たちへのオマージュ

本作に収められた楽曲は、20世紀初頭から中期にかけてブルースの歴史を彩った巨人たちの作品から厳選されています。リロイ・カー、マディ・ウォーターズ、エディ・ボイド、ローウェル・フルソン、フレディ・キング、ジミー・ロジャーズ、バーベキュー・ボブ、エルモア・ジェイムス、オーティス・ラッシュなど、デルタブルースからシカゴブルース、テキサスブルースまで、多岐にわたるスタイルと年代の楽曲が収録されています。最も古いものは1920年代、新しいものでも1960年代初頭に発表された曲であり、クラプトンがいかにブルースという音楽の系譜を深く理解し、敬意を払っているかが伺えます。彼はこれらの古典に新たな解釈を加え、自身のギターとボーカルで現代に蘇らせています。

ブルース一色のツアーと盤石なサポート

アルバムのリリース後、1994年から1995年にかけて行われたワールドツアーも、このブルース回帰のコンセプトを忠実に再現しました。セットリストの全曲がブルースのカバーで固められたこのツアーは、クラプトンがスーパースターとしての地位から一歩離れ、自身の音楽的ルーツを聴衆と分かち合いたいという強いメッセージの発信でした。

このブルースの旅を支えたのは、経験豊かなミュージシャンたちです。

エリック・クラプトン (Eric Clapton) - ギター、ボーカル
デイヴ・ブロンズ (Dave Bronze) - ベースギター
ジム・ケルトナー (Jim Keltner) - ドラムス
アンディ・フェアウェザー・ロウ (Andy Fairweather-Low) - ギター
ジェリー・ポートノイ (Jerry Portnoy) - ハーモニカ
クリス・スタイントン (Chris Stainton) - キーボード
* ホーンセクション、パーカッションを加えたメンバーも一部楽曲に参加しています。

彼らの熟練した演奏が、クラプトンのブルースフィーリング溢れるパフォーマンスを力強く支えています。

結論：クラプトンにとってのブルース

『フロム・ザ・クレイドル』は、単なるカバーアルバムに留まらず、エリック・クラプトンというアーティストがいかにブルースという音楽を愛し、自身の血肉としているかを示す決定的な作品です。一発録りという手法による生々しいサウンド、ブルース史を網羅する選曲、そしてブルース一色に染まったツアーは、彼が単なるヒットメイカーではなく、真摯なブルースマンであることを改めて証明しました。このアルバムは、クラプトンのキャリアにおける重要な節目であると同時に、ブルースという音楽の魅力を再認識させる作品として、今なお多くのファンに愛され続けています。

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