フローレンス・ヨック

フローレンス・ヨック（Florence Yoch、1890年-1972年）は、20世紀初頭から中期にかけてアメリカ合衆国カリフォルニア州で活躍した、最も重要な女性造園家（ランドスケープアーキテクト）の一人です。彼女の設計は、広大な地所や私邸の庭園から、キャンパス、公園、植物園、さらには映画のセットに至るまで、極めて広範囲にわたる景観タイプを包含していました。その活動は53年間に及び、250件を超えるプロジェクトを手がけています。

ヨックは特にハリウッドとの繋がりが深く、初の女性映画監督として知られるドロシー・アーズナーをはじめ、多くの映画関係者と協働しました。また、ジャック・ワーナーやデヴィッド・セルズニックといった著名な映画プロデューサーや俳優たちのために、数多くの印象的な邸宅庭園を設計しています。彼女の最もよく知られた仕事の一つに、不朽の名作『風と共に去りぬ』に登場する架空の農場「タラ」のセットデザインへの貢献が挙げられます。この壮大なプロジェクトのため、彼女は北アフリカに渡り、広範な現地調査を行ったと伝えられています。

経歴とデザイン哲学

カリフォルニア州南部の裕福な家庭に生まれたフローレンス・ヨックは、幼少期からの頻繁なヨーロッパ旅行を通じて、豊かな芸術的感性と審美眼を養いました。高等教育においては、カリフォルニア大学バークレー校とコーネル大学で学び、その後イリノイ大学アーバナシャンペーン校で造園学の専門教育を受け、学位を取得しています。

造園家としてのキャリアは1918年にスタートしました。1921年には、後に彼女の公私にわたる大切なパートナーとなるルシール・カウンシル（Lucile Council）が事務所の見習いとして加わります。二人は1964年にカウンシルが亡くなるまで、40年以上にわたり共同でデザイン活動を行いました。

初期のヨックのデザインは、気候や環境が南カリフォルニアと類似している点に着目し、イタリアやスペインのムーア様式のヴィラ庭園から強い影響を受けていました。これらの庭園様式を参考に、南カリフォルニア特有の「地中海風」景観を創出しようと試みました。しかし、彼女のデザインのインスピレーション源はそれだけにとどまりません。イングランドの色彩豊かなコテージガーデンや、フランスのヴェルサイユ宮殿に代表されるような幾何学的な整形式庭園からも要素を取り入れ、多様な依頼に応じる中でそのスタイルを拡張させていきました。同時代の著名なイギリス人ガーデンデザイナー、ガートルード・ジーキルとの交流が雑誌で紹介されることもありましたが、ヨックは特定の流派やスタイルに固執することなく、彼女自身の独自の洗練されたスタイルを開発していきました。

第二次世界大戦の勃発は、大規模な庭園建設プロジェクトに影響を与えました。この時期には、主にパサデナ周辺で、より自然な地形や風景を生かした土地造成の仕事が増加しました。ヨックとカウンシルのデザインは、単一の固定されたスタイルを持つものではなく、フォーマルな構成要素と野生的な植栽、あるいは非対称な配置といった対照的な要素を巧みに組み合わせる柔軟性が特徴です。彼らの仕事は、伝統的なアドベ造りの小さな家から、ハリウッドの大スターが所有するような広大な大邸宅まで、その規模や建築様式も多岐にわたりました。活動範囲もカリフォルニア州内に留まらず、メキシコにまで及んでいます。1950年代から60年代にかけては、より非対称で自然の趣を生かしたワイルドガーデン的なスタイルの探求も見られます。

主な作品

フローレンス・ヨックは数多くのプロジェクトを手がけましたが、その代表的なものとしては以下が挙げられます。

ハワード・ハンティントン夫人邸庭園（カリフォルニア州パサデナ）
ショショーニ・フォールズ国立公園
ウィルシャー・カントリークラブの住居庭園（ロサンゼルス）
カリフォルニア工科大学の教員・職員・学生寮庭園
ドンキホーテコート（カリフォルニア州サンタバーバラ、現存）
ランチョ・ロス・アラミトス（カリフォルニア州ロングビーチ、現存）
イル・ブロリーノ（Il Brolino）（カリフォルニア州モンテ、現存）
モントレー庭園（1950-60年代の非対称・野性的スタイルの例）

映画関連では、『風と共に去りぬ』の「タラ」セットデザインのほか、以下の作品に関わっています。

映画『ロミオとジュリエット』（1936年）の庭園セット
映画『グッド・アース』（大地、1937年）のチャッツワースの丘に作られた棚田を含む庭園セット

ヨックの仕事は、単に美しい景観を創り出すだけでなく、それぞれの場所の特性、クライアントの要望、そして使用目的を深く理解し、多様な要素を融合させる卓越した能力を示しています。特に、初期の地中海スタイルから、自然をより重視する後期のスタイル、そして映画セットのような一時的な空間デザインまでを手がけたその幅広さは、彼女が単なるスタイルデザイナーではなく、真のランドスケープアーキテクトであったことを証明しています。

参考文献

* Landscaping the American dream : the gardens and film sets of Florence Yoch, 1890-1972 / James J.Yoch, H.N. Abrams, 1989

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