フードスケープ

フードスケープ：食と景観の融合

近年、注目を集めているフードスケープ（Foodscaping）は、単なる庭造りではなく、食用植物を活用した新しいランドスケープデザインです。観賞用の花壇とは異なり、野菜、果物、ハーブ、食用花などを積極的に取り入れ、美しい景観と食料生産を両立させる試みと言えるでしょう。

フードスケープの定義と広がり

フードスケープは、「Food（食）」と「Scape（景観）」を組み合わせた造語で、食べられる植物を用いた景観づくりを指します。英語圏では21世紀に入ってから注目され、専門書や論文も多数発表されています。しかし、日本においては、まだ十分に浸透しているとは言えません。

フードスケープは、単に食料を生産するだけでなく、地域文化や歴史と深く結びついています。例えば、佐賀県唐津市の蕨野の棚田や長崎県平戸市の春日の棚田では、フードスケープの考え方を活かした地域活性化の取り組みが行われています。これらの棚田では、美しい景観と美味しい米作りが一体となり、地域を支える重要な要素となっています。また、福岡市かなたけの里公園では、来園者が実際に米作りを体験し、収穫した米を試食するプログラムが実施されています。

フードスケープの多様な側面

フードスケープの定義や捉え方は、研究者や実践者によって様々です。生産者や消費者の視点、地域や文化的な背景、さらにはグローバルな食の状況まで考慮に入れながら、多角的に議論されています。

例えば、食育プログラムへのフードスケープの導入も注目されています。食卓から食料生産現場、ひいては地域社会全体を包括的に捉え、「食のインフラ」という概念を用いて、食に関する想像力を育む取り組みが進められています。

フードスケープの目指すもの

フードスケープは、単に美しい景観を作るだけでなく、以下の様な多様な価値を提供します。

食料の安定供給： 庭先で野菜や果物を栽培することで、新鮮な食材を確保できます。
環境保全： 食用植物は、土壌の保全や生物多様性の維持に貢献します。
地域活性化： 食文化や伝統を活かした地域独自のフードスケープは、観光資源としても活用できます。
食育： 食材の生産過程を体験することで、食への理解と関心を深めます。

フードスケープの今後の展望

フードスケープは、食料問題、環境問題、地域社会の活性化など、現代社会が抱える様々な課題への解決策となる可能性を秘めています。今後、さらなる研究と実践を通して、フードスケープの概念がより広く普及し、持続可能な社会の実現に貢献することが期待されます。

参考文献

太田 和彦(2017)食育実践におけるフードスケープ概念の有効性 : 食卓から見えない景色への想像力を育む,ランドスケープ研究 : 日本造園学会会誌　256-259　2017年10月
高尾 忠志,永村 裕子,木藤 亮太(2015)フードスケープ : 「食べ物」を通して関係性を紡ぐ　特集 都市のつくる農のランドスケープ　ランドスケープ研究 : 日本造園学会会誌　79(1)　8-10
監修：アーツ前橋(2016)フードスケープ : 私たちは食べものでできている 中央出版
ジョゼ ・ジョンストン(著),シャイヨン・バウマン(著),村井重樹(翻訳)（2020）フーディー グルメフードスケープにおける民主主義と卓越化　青弓社
* 河合 洋尚(2020)フードスケープをめぐる研究動向　国立民族学博物館研究報告 45 (1), 81-114, 国立民族学博物館

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