ブドヴァル

ブドヴァル：チェコ発祥の伝統的なビール

ブドヴァルは、チェコ共和国南ボヘミア州のチェスケー・ブジェヨヴィツェ市で醸造されるビールブランド「ブドヴァイゼル」の一種です。正式名称は「ブドヴァイゼル・ブドヴァル」で、ブジェヨヴィツェ・ブドヴァル国営会社によって製造・販売されています。この地域では他にも「ブドヴァイゼル・ベルゲブロイ」や「ブドヴァイゼル・ビール」といったブランドも存在しますが、本稿ではブドヴァルを含むチェスケー・ブジェヨヴィツェ産の「ブドヴァイゼル」ブランド全体について詳しく解説します。

歴史

ブランドの誕生

チェコは中世からビール製造が盛んな地域で、特に「ピルスナー」はチェコのピルゼン（プルゼニュ）地方が発祥の地として知られています。1265年にはチェスケー・ブジェヨヴィツェ（ドイツ名：ブドヴァイス）に醸造所が建設され、1531年にはフェルディナンド国王がこの地のビールを王室御用達に指定するなど、高品質なビール産地としての地位を確立しました。

18世紀になると、ブジェヨヴィツェの醸造所は2つの大規模なものに集約されました。その一つであるブジェヨヴィツェ市民醸造所は、地名「ブドヴァイス」をブランド名として使用することを初めて許可され、「ブドヴァイゼル・ベルゲブロイ」というブランドでビールを製造しました。一方、チェコ合同醸造所は「ブドヴァイゼル・ブドヴァル」ブランドでビールを製造し、それぞれがヨーロッパを代表するビールブランドとして発展しました。

1871年、ブジェヨヴィツェ市民醸造所は「ブドヴァイゼル・ベルゲブロイ」を初めてアメリカに輸出し、その後、チェコ合同醸造所も1895年からアメリカへの輸出を開始しました。しかし、アメリカではすでに「バドワイザー」の商標登録をしていたアンハイザー・ブッシュ社との間で、商標権を巡る訴訟が勃発しました。

社会主義時代

第二次世界大戦中、両醸造所はドイツ資本の傘下に入りましたが、戦後の1946年にチェコスロバキア政府に接収されました。1948年には国営会社として再編され、ブジェヨヴィツェ市民醸造所は「サムソン」というブランド名に変更されました。その後、1967年に旧チェコ合同醸造所が分離され、「ブドヴァイゼル・ブドヴァル」としてブランドが統一されました。

民主化後

チェコスロバキアの民主化後、1989年にはサムソン醸造所が「ブドヴァイゼル」ブランドを復活させました。その後、ブジェヨヴィツェ市民醸造所は株式会社として再編され、現在に至ります。一方、「ブドヴァイゼル・ブドヴァル」は、現在も国営会社として商業登記されていますが、国家所有の法人としての法的地位を失った状態が続いています。

ブジェヨヴィツェ市民醸造は2003年にブドヴァイゼル・ブドヴァル国営会社の商業登記無効を訴えましたが、2005年に高裁で訴えは棄却されました。チェコ政府内では早急な特別法の制定や民営化が必要だとする議論が続いていますが、アンハイザー・ブッシュ社による商標権買収への警戒もあり、問題解決には至っていません。

特徴

ブドヴァイゼル・ブドヴァルは、地下320メートルから汲み上げた軟水と厳選された麦芽、高品質なザーツホップを使用しています。伝統的な製法で醸造されたこのビールは、淡い黄金色とドライで爽快な味わいが特徴で、喉ごしの後にはホップの苦みと豊かな香りが広がります。その品質の高さから、プレミアムビールとして評価されています。

ブドヴァイゼルブランドの主な銘柄

Budweiser Budvar B:ORIGINAL Světlý ležák (アルコール度数5%)
Budweiser Budvar B:CLASSIC Světlé výčepní pivo (アルコール度数4%)
Budweiser Budvar B:DARK Tmavý ležák (アルコール度数4.7%)
Budweiser Budvar B:FREE Nealkoholické pivo (アルコール度数0.5%)
* Bud B:STRONG Speciální pivo (アルコール度数7.5%)

バドワイザーとの関連

ブドヴァイゼル・ブドヴァルとアメリカのアンハイザー・ブッシュ社の「バドワイザー」は、商標を巡って世界中で争っています。1876年に、アメリカのアドルファス・ブッシュが、チェコの「ブドヴァイス」にあやかって、自社のビールに「バドワイザー」と名付けたのが始まりです。当時、ブジェヨヴィツェの醸造所との間には関係はありませんでした。

20世紀に入り、両社の間で商標権を巡る訴訟が勃発。1911年と1939年の2度の合意により、チェコ側は北米大陸と米保護領に限って「Budweiser」の商標権を放棄しました。現在、ヨーロッパの多くの国では、アンハイザー・ブッシュ社の「バドワイザー」は「Bud」や「Busch」という名前で販売されています。

一方、アメリカやカナダでは、ブドヴァイゼル・ブドヴァルは「Czechvar」、ブドヴァイゼル・ベルゲブロイは「BB Bürgerbräu」として販売されています。日本では、アンハイザー・ブッシュ社の「バドワイザー」が登録商標ですが、チェコ側の商標権放棄は限定的であるため、「ブドヴァイゼル・ブドヴァル」の輸入・販売は制限されていません。

アンハイザー・ブッシュ社は、世界中で「バドワイザー」の名前を使用するためにブドヴァイゼル・ブドヴァルに商標の買収を申し入れましたが、ブドヴァル側はこれを拒否しています。2006年のFIFAワールドカップ・ドイツ大会では、アンハイザー・ブッシュ社がスポンサーでありながら、「Bud」という名前で広告を展開しました。

この複雑な歴史と商標争いを経て、ブドヴァイゼル・ブドヴァルはチェコの伝統を守りながら、世界中でその味わいを届け続けています。

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